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地域経済に焦点、アベノミクスの分析も―マクロモデル研究会を大阪で開催

 9月12日、13日の両日、「マクロモデル研究会」を開催した。大学や官庁、民間機関の計量分析の専門家が一同に集まり、最新の研究成果を報告する会議で、当センターが2007年度から事務局となり毎年開催している。今回はアジア太平洋研究所(APIR)が事務局に加わり、初めて大阪を会場とした。両日合わせて12件の報告があり、50人を超える参加者が活発な議論を繰り広げた。「地方創生」が安倍政権の重要課題となる中、地域経済に焦点を当てた研究が目立ったほか、アベノミクスの経済効果を定量的に評価する報告もいくつかあった。

県別に作成し、他と比較

 地方創生に向けた議論では拠り所となる経済統計の整備が欠かせない。ところが、代表的な統計である県民経済計算は確報が公表されるまでに約2年の遅れ(ラグ)がある。この点に着目し、稲田義久氏(甲南大学)らは昨年の本研究会で県内総生産の早期推計手法を紹介した。3月の統計が公表された時点で、当該年度の推計が可能になる手法だ。今回は、これを改良の上、さらに全都道府県に展開した結果を報告した。

 山澤成康氏(跡見学園女子大学)は県内総生産を月次で作成する試みを報告した。消費や投資、公共事業など域内支出の一部を対象とした内閣府の地域別総合支出指数(RDEI)に独自の推計値を加えて作成する。その上で東日本大震災の被災3 県に関し、震災がなかった場合の県内総生産の動きを推計し、震災後に生じる生産などフロー面の被害額を試算した。その結果、生産の減少は短期間で終わり、毀損したストックの復興需要が大きく増加している状態を把握できたという。

 個別地域の経済動向を分析する報告もあった。吉川満氏(徳島県)は、徳島県の景気動向指数の開発とその利用事例を報告した。徳島県は、内閣府型のCI(コンポジット・インデックス)と、複数の経済指標の変動から背景にある共通要因を「景気の波」として抽出したStock-Watson型景気指数を作成し、公表を始めた。これらの景気動向指数の動きから東日本大震災、アベノミクスから消費増税後に至るまでの同県経済を他地域と比較した結果を紹介した。

 鈴木雅勝氏(中部圏社会経済研究所)は、三重県と全国を連動させたマクロ計量モデルによる同県経済と労働市場の中長期見通しを報告した。人口移動モデルを組み合わせて分析すると、三重県からの人口流出は加速するものの、輸出の高まりにより同県の県内総生産は微増するという。

 関西地区を対象に理論的な裏付けが明確な動学的確率的一般均衡(DSGE) モデルを応用する研究成果を報告したのが岡野光洋氏(アジア太平洋研究所)のグループだ。このモデルにより、地域特性を明らかにしたり、様々な政策シナリオを試算することが可能になることを目指している。




最新モデルで政策を評価

 財政・金融政策などを最新モデルで定量的に評価する試みがいくつかあった。石川大輔氏(財務省財務総合政策研究所)は動学マクロ計量モデル(動学CGEモデル)を用いた資本課税等の経済効果を分析した。税収中立の前提の下、長期的な乗数が比較的大きい税目は法人所得税、利子所得税、小さいのは労働所得税と配当所得税となることが分かったという。

 金融政策の評価としては、当センターの蓮見亮研究員が価格硬直性を前提にインフレ率を内生化した標準的なニューケインジアン・モデルをDSGEモデルに拡張し、日銀によるゼロ金利政策継続というフォワード・ガイダンスの効果を分析した。これによると、テイラー・ルール(インフレ率と国内総生産(GDP)ギャップをもとにした金融政策)に機械的に従った場合よりも、一定期間以上ゼロ金利政策を継続するというコミットには強い金融緩和効果があるとしている。

 人口目標を掲げる安倍政権では子育て支援の拡充が課題となっている。萩原里紗氏(慶應義塾大学)らは、動学的離散選択モデルによる育児休業制度拡充の効果を試算した。それによると、正規雇用者の育児休業取得率確率と出産確率を高めるためには、育児休業期間の延長とともに給付期間も延長することが有効である。また、非正規雇用者に対しては、育児休業期間を延長するだけのほうが育児休業取得率確率を高める効果があることを報告した。

 浜田文雅氏(慶應義塾大学)らは、日本経済の政策シミュレーションのためのマクロ計量モデルを構築した。ケインズ型の有効需要モデルを土台に、同氏の考えるミクロ理論と整合するように設計したものだ。試作段階ではあるものの、このモデルでアベノミクスの政策効果を分析したところ、財政乗数の弱さや消費税増税の有効需要押し下げが短期よりも長期に影響する可能性などが示されたという。

エネルギーや社会保障問題も

 間瀬貴之氏(電力中央研究所)は、燃料価格の変動と整合的な電気料金の変動を試算できる電気料金想定フレームと、短期マクロ経済=産業連関接続システムを開発した。これを用いて電気料金値上げの産業への影響を見たところ、石油製品、非鉄金属精錬・精製などのエネルギー多消費産業において価格上昇と生産減が大きいことが分かったという。

 宍戸駿太郎氏(筑波大学・国際大学)らは中期多部門モデルDEMIOSを用いたメタンハイドレートの開発をめぐるシミュレーション分析を報告した。同氏らの分析によると、標準ケースと比較して、メタンハイドレートが開発されたケースでは、GDPは微増ながらも、天然ガスの国産化により、石油製品や基礎・中間化学製品の国内生産を増やす効果があるとの結果が報告された。

 中澤正彦氏(京都大学)らは人口構造変化を踏まえた年齢関係支出と税収・社会保険料の部分均衡分析に基づき、健康な期間が長期化する長寿化シナリオの将来推計を紹介した。これによるとベースシナリオに比べ、長寿化シナリオでは医療、介護需要の伸びが抑制され、医療は公費の負担割合も減少し、年金はマクロ経済スライドの短期化など、年金財政の健全性が高まるという。

当センターでは本研究会を今後も開催する予定で、ここで得た知見や人的ネットワークを、今後の研究に生かしていく考えだ。
(研究本部)

*本研究会は、当センターの猿山純夫首席研究員のほか、稲田義久・甲南大学教授、門多治・電力中央研究所シニアエコノミスト、千田亮吉・明治大学教授らが幹事として運営に当たっている。また、本研究会では発表テーマをマクロモデルに限定せず、統計や景気指標、あるいは予測手法などの周辺分野も取り上げている。

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