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日本経済研究センターからのお知らせです

景気・政策をモデルで評価、最新成果一堂に―マクロモデル研究会を開催

 9月11日、12日の両日、「マクロモデル研究会」を開催した。大学や官庁、民間機関の計量分析の専門家が一堂に集まり、最新の研究成果を報告する会議で、当センターが2007年度から事務局となり毎年開催している。9回目となる今回は両日合わせて12件の報告があり、約70人の参加者が活発な議論を繰り広げた。内容は地域経済分析、超短期予測の新手法、アベノミクスの検証のほか、動学的確率的一般均衡(DSGE) モデルを利用した研究成果の報告など多岐にわたった。

景気・経済動向に迫る

 地方創生が叫ばれる中、地域経済の動向をどう把握するのか。報告の口火を切った山澤成康氏(跡見学園女子大学)は月次の県別域内総生産(GDP)を内閣府の地域別総合支出指数(RDEI)などを使い独自に作成した。さらに県別GDPから景気変動を抽出し、拡張ないし後退の景気局面を確率モデルから割り出す。2008年9月のリーマン・ショックを挟む時期では、県ごとの先行・遅行性が存在するほか、周辺地域との景気の連動性などが観察されたという。

 岡野光洋氏(大阪学院大学)は関西地区の四半期GDPを推計する試みを報告した。各府県の年次の県民経済計算をもとに、山澤氏と同様、内閣府のRDEIを使って四半期データに分割する。RDEIの公表期間の制約から、2002年3月以前は独自に遡及推計するなどの工夫もしている。精度などに改良の余地はあるものの今後、同地域の経済動向の早期把握や地域経済モデルに利用することを目指している。

 足元の経済予測はナウキャスティングと呼ばれる。田中晋矢氏(小樽商科大学)はこの分野の新手法と実証結果を報告した。月次と四半期など期種の異なる変数を用いた予測を可能とするMIxed Data Sampling (MIDAS)回帰分析を応用したものだ。説明力のある重要な変数を選択しやすく、その経済的な解釈も容易になる利点がある。大規模月次データを使い米国の四半期GDPを予測したところ、予測誤差は先行研究の手法よりも小さかったという。




アベノミクスを評価する

 第2次安倍内閣の発足から間もなく3年。アベノミクスの効果を検証する報告もあった。浜田文雅氏(慶應義塾大学)はケインズ型をベースとしつつ、ミクロ経済的視点も織り込んだマクロモデルを用いて、アベノミクスの経済効果を推計した。異次元金融緩和がもたらす景気刺激効果は限定的であり、デフレ基調は変わらない。デフレ脱却に奇策はなく、地道な財政支出の増加による有効需要の下支えが最も有効な景気回復手段だと指摘した。

 代田豊一郎氏(日本銀行)は、日銀での経済モデルの活用状況を紹介した上で、事例として「質的・量的金融緩和(QQE)」の効果試算を紹介した。日銀では用途によりモデルを使い分けており、いわゆる計量経済モデルに変数間の長期均衡や期待形成などを織り込んだハイブリッド・モデル(Q-JEM)を四半期予測やシミュレーションに活用する一方、潜在成長率の推計や構造問題の分析などにはミクロ的な基礎付けに基づいた動学的確率的一般均衡(DSGE)モデルも用いているという。13年1−3月期から14年10−12月期までの期間でQQEの効果をQ-JEMを使って検証すると、実際の需給ギャップや物価の変化は想定したメカニズムに沿った動きを示している、との結果が得られたという。

 増島稔氏(内閣府)らは、年齢や子どもの有無など世帯類型により、社会保障や教育などの受益と、税・保険料などの負担がどのように異なるか整理を試みた。全国消費実態調査の個票をベースに過去20年間のデータを追うと、例えば高齢者の純受け取り(受益)は横ばいだった一方、子ども数の減少で若年層の純負担が増えたことなどを明らかにした。

 宍戸駿太郎氏(筑波大学・国際大学)らは中期多部門モデルDEMIOSを用いて原油価格下落の影響を分析した。14年半ばから原油が値下がりした背景には、 世界経済、特に中国をはじめとする新興国の低迷がある。わが国にとっては輸入関連物価の低落による交易条件の好転から名目所得増による内需の上昇と、一方では輸出価格の減少による円高と外需減を伴うものであり、アベノミクスによるデフレ脱却の時期を早める要因にはなりえない。むしろ強力な国土強靭化のような金融支援型の財政出動が不可避で、一方で誘発される税収増で財政再建も一段と早まるという。

 少子高齢化は将来の住宅やエネルギー需要にも影響を及ぼす。中野一慶氏(電力中央研究所)は、家庭用のエネルギー・電力需要を決定する要因として重要な住宅戸数(ストック)について、その建て方を踏まえた将来推計を報告した。一戸建て、共同住宅など建て方により世帯当たりのエネルギーの使用量が異なる。人口減少と少子高齢化が進む中で、世帯人員の減少、単独世帯の増加により、一戸建てに住む世帯数は2020年に、共同住宅に住む世帯数も2025年にそれぞれピークを迎えるという。

 産業構造の分析に関する報告もあった。西村一彦氏(日本福祉大学)は多部門からの生産要素の投入を考慮した生産関数に基づいて産業連関表を使った分析を紹介した。代替の弾力性を一定としたCES型生産関数において投入要素間の代替の弾力性を推計する。これをコブ‐ダグラス型、レオンチェフ型などの生産関数と比較し、一般均衡的な枠組みの中で、ある産業の生産性が改善した場合の影響の違いを報告した。



DSGEモデルの意欲作が並ぶ

 今回の研究会ではDSGE モデルを応用する意欲作が目立った。小津敦氏(総務省)らは、DSGE モデルを用いて、クラウドの普及がマクロ経済に与える影響を報告した。クラウドはICT(情報通信技術)関連の初期投資を軽減し、起業や市場参入を容易にする。クラウドの普及が早い場合と遅い場合に分け、産業区分ごとのクラウドの普及余地を考慮しマクロ経済への影響をみた。

 井田大輔氏(桃山学院大学)らは、DSGEモデルを関西経済へ適用する試みを報告した。関西は関東に比べ、金融資産を保有していない家計の比率が高いなどの理由から、所得の範囲内に消費が抑えられる流動性制約に直面する家計の割合が高いとみられる。こうした地域による家計の異質性をモデル化し、関西の住宅投資が関東よりも低迷している状況を説明する分析結果を報告した。

 酒井才介氏(財務省財務総合政策研究所)らは財政政策の効果を、やはりDSGEモデルを使って試算した。従来の理論モデルでは政府支出を増やすと家計は将来の増税に備えて消費を抑制するというパズルが存在する。これを解消するため政府消費を医療、介護や教育などのメリット財、防衛、警察などの公共財に分類し、民間消費への影響をみた。その結果、メリット財への政府支出について民間消費が正に反応することなどを紹介した。

 当センターでは本研究会を今後も開催する予定で、ここで得た知見や人的ネットワークを、今後の研究に生かしていく考えだ。
(研究本部)

*本研究会は、当センターの猿山純夫首席研究員のほか、稲田義久・甲南大学教授、門多治・電力中央研究所協力研究員、千田亮吉・明治大学教授らが幹事として運営に当たっている。また、本研究会では発表テーマをマクロモデルに限定せず、統計や景気指標、あるいは予測手法などの周辺分野も取り上げている。

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【バックナンバー】
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2013年のマクロモデル研究会
2012年のマクロモデル研究会
2011年のマクロモデル研究会
2010年のマクロモデル研究会

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