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日本経済研究センターからのお知らせです

最新モデルからクライン教授の遺作まで―マクロモデル研究会を開催

 2017年9月15日、16日の両日、「マクロモデル研究会」を開催した。計量分析の専門家が一堂に集まり、最新の研究成果を報告する会議で、2007年度から当センターが事務局として運営してきた。昨年からアジア太平洋研究所(APIR)との共催となり、11回目となる今回は両日合わせて11件の報告があり、約50人の参加者が活発な議論を繰り広げた。内容は最新のDSGEモデルの報告に加え、地域経済やミクロ(個票)データを扱った分析が目立ったほか、特別セッションではノーベル経済学賞受賞のクライン教授の遺作モデルの紹介もあった。

予測や景気を定量評価

 報告の口火を切った飯塚信夫氏(神奈川大学)は、当センターが毎月集計する「ESPフォーキャスト調査」の予測履歴データを用い、予測者間の見通しのばらつきが有用な情報を含んでいるか検証した。消費者物価の予測では、ばらつきが大きくなった後に予測誤差も膨らむ傾向があるが、国内総生産(GDP)は同様の傾向がなかった。理由として、日本のGDPは期ごとの振れが大きく誤差が広がりがちなことや、予測者が他機関の予測を意識するためにばらつきが小さくなる可能性を示した。

 難波了一氏(中部圏社会経済研究所)は今年1月から公表を開始した中部圏の景気指数について報告した。同地域は多様な圏域を含んでいるために、1つの経済指標で全体を表す難しさがあり、領域区分にも悩んだ経緯の紹介があった。現在の景気状況を示す一致指数は、製造業が集積しているため全国よりも振幅が大きいこと、東海3県の2016年からの回復が全国より遅れ気味な半面、北陸3県ではむしろ早めだったことなどを報告した。

 当センターの小野寺敬・研究本部長からは都道府県が景気指数を作成・維持する上で、当初から先行・一致別に基礎指標を分けるのではなく、循環が読み取れる指標を幅広く利用する「母集団方式」を採用してはどうかと提案があった。最初に20程度の指標から転換点を特定の上、先行や一致指数は二次的に作成する考え方だ。同方式では基礎指標や人員が限られる地域でも転換点の特定が容易になり、指数算出も続けやすくなる利点がある。




DSGEモデルで測る経済効果

 長町大輔氏(国土交通省)らは、日本の公共投資の経済効果を測定する動学的・確率的一般均衡(DSGE)モデルを構築し、データと整合的なパラメーターを用いて政府投資のマクロ経済効果の計測を行った。一般にフォワード・ルッキング(先読み的)な一般均衡モデルの財政乗数は、いわゆるケインズ型のマクロモデルの財政乗数より小さくなる傾向があるが、名目金利がゼロで一定といった現在の日本経済と整合的な仮定を導入すると、政府投資のマクロ経済効果は支出以上のGDP拡大をもたらす可能性があることを示した。

 当センターの蓮見亮研究員は、ポール・ローマーの内生成長メカニズムを取り入れた実物的景気循環(RBC)型の一般均衡モデルを用いて、わが国の研究・開発(R&D)投資と景気循環との関連を分析した。通常、このタイプのモデルは景気循環が技術進歩を示す全要素生産性(TFP)の変化(ショック)から生じると考えるが、本モデルではそれに代えてR&D投資が技術進歩をもたらすものとした。このような「純粋な」技術ショックから得られる経済のトレンド成分は、実質成長率からトレンドとノイズを除去した景気循環成分と類似性が高いことを明らかにした。

 山崎丈史氏(財務省財務総合政策研究所)は、新興国を対象としたソブリン・デフォルト・モデルに実体経済や金融市場のショックを多数組み込み、アルゼンチンのデータを用いて対外債務のデフォルト確率への影響を分析した。モデルからは、対外債務の水準が低いうちは、債券価格は経済・金融のショックに対して非常に頑健であるが、対外債務が一定の水準を超えると、経済・金融のショックによりデフォルトが引き起こされる確率が突然高くなるという結果が得られた。

パネルデータによる分析も

 企業財務データやパネルデータを使った分析の報告もあった。千田亮吉氏(明治大学)らは、投資などの企業の行動が資産価格の変動とどのように関係するかを説明する「設備投資資産価格モデル」の中から、企業価値(トービンのq)を対象とするモデルに無形資産(R&D資本)を組み込んで分析した。その結果、R&D資本を用いるとトービンのqの説明力が高く、R&D投資が成長オプションの創造を通じて企業価値を高める上で主導的な役割を果たしている可能性が示された。

 林万平氏(関西国際大学)らは、足元で上振れ気味に見える住宅建設の動きが景気実態(ファンダメンタルズ)に基づいているのか、不動産価格指数を用いて検証した。地域ブロック別の同指数は、ほぼ地域ごとの経済活動に見合った変動を示しているが、マンション価格には戸建て価格と比べて経済実態から外れやすい傾向が見られた。2014年4月の消費税引き上げの直前にはマンション価格がトレンドに比べて上振れし、近年の相続税増税も持ち家価格を押し上げる傾向が確認できたと報告した。

奨学金の経済効果は

 「人材への投資」が政策として注目される中、奨学金制度の経済効果を分析する報告が2件あった。萩原里紗氏(明海大学)は、日本では親の所得や学歴が低いと、子どもにも「負の連鎖」が存在する傾向が強いことを指摘のうえ、その解消に大学生向け奨学金が有効かどうかを調べた。高校卒業後、6年間追跡したパネルデータを用いた分析によると、奨学金が大学進学を促し、教育や所得の格差解消にある程度は貢献しているが、奨学金受給の有無によって、大卒後の所得に有意な差は見出されなかったという。

 当センターの河越正明特任研究員らは、2017年4月に導入された新たな所得連動返還型奨学金制度(ICL)に着目した。ICLは将来の所得が少なかった場合に返済額が軽減されるという保険機能を有する一方で財政コストが膨らむ懸念もある。個票データによる試算では、現在主流の固定返済型からICLに移行すると、割引率2%の前提で全体のコストはあまり変わらないが、低所得者の返済負担が大きく軽減されることがわかった。同時に、女性が結婚や出産により非労働力化することで返済が軽減されるモラルハザードをどれだけ防げるかが重要だとも指摘した。


 特別セッションでは、市村真一氏(京都大学)がクライン・元ペンシルベニア大教授による最後とみられる米国マクロモデルを紹介した。消費、設備投資などが10〜20程度の業種に分割されており、90年代に民間シンクタンクで予測に活用されていたものだ。同教授は少数の変数だけで米国経済を描くという考え方には懐疑的で、詳細な描写を積み上げて景気判断を下す傾向があったというエピソードも披露した。同モデルの内容をまとめた単行本は年内に発刊されるという('Klein’s Last Quarterly Econometric Model of the United States’ World Scientific社刊)。



 当センターはAPIRとの共催で本研究会を今後も開催する予定で、ここで得た知見や人的ネットワークを、今後の研究に生かしていく考えだ。
(研究本部)

*本研究会は、当センターの猿山純夫首席研究員、門多治特任研究員のほか、稲田義久・甲南大学教授、千田亮吉・明治大学教授らが幹事として 運営に当たっている。また、本研究会では発表テーマをマクロモデルに限定せず、統計や景気指標、あるいは予測手法などの周辺分野も取り上げている。

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