緊急事態対応-3月末までに5兆円規模の震災対策を
2011/03/17
3つの問題発生
東日本巨大地震と津波の後に、原子力発電所の発火・放射線漏れ問題が加わって、日本は、戦後復興期につぐ巨大な問題群に直面している。
東日本巨大地震は、1000年に一度と言われる程のマグニチュード9の大規模地震であった。その規模は、阪神淡路大震災のマグニチュード7.3をはるかに上回っただけでなく、被災地を含めた広い領域を未曾有の大津波が襲った。
設計上の想定をはるかに上回るマグニチュード9の大地震にもかかわらず、福島原子力発電所は、倒壊を免れ、何とか操業停止した。この意味で、操業中の炉心がメルトダウンするに任せたチェルノブイリ事故と異なっている。しかし、津波は、福島原子力発電所の電気系統ネットワークを破壊し、流し去った。そのため、余熱を冷却する装置が機能せず、水素爆発を誘発し、放射線が外部に漏れ出している。
福島原発事故の深刻度
今回の事故は、国際原子力事象評価尺度(INES)に照らしてみると、レベル4に匹敵すると原子力安全・保安院は認定してきた。しかし、フランス原子力安全機関は、3月15日の時点で福島原発の事故はレベル6に相当するとし、米国のシンクタンク(科学国際安全保障研究所)は、「レベル7に到達する可能性もある」との見解を示した。
1979年のスリーマイル・アイランドの原発事故は、レベル5であり、1986年のチェルノブイリ原発事故はレベル7であった。ちなみに、レベル7は、過去この1回のみであった。日本経済の心臓部である東京が、このような規模の災害リスクに直接さらされたことは、関東大震災以来のことである。人々の心理面を通じた経済縮小効果は決して軽視できない。
大地震よりも原発事故のリスクに株価はより大きく反応した。3月14日に1日で10%株価は低下した。大地震が発生してからの日経平均株価指数の低下幅は17日現在で約15%に達している。阪神淡路大震災の場合には、円高が99円から80円を切るところまで進んだこともあり、株価は21%下落した。
電力不足問題
東京電力は4月末までの計画停電に踏み切った。病院、物流、企業の生産活動には大きな影響が及んでいる。原発事故の先行きはまだ不確実だ。しかし、事故にあった原発は使用不可能になり、新たな原発の建設も困難になろう。電力不足は、日本経済にとって短期のみならず中長期に解決すべき問題になっている。
阪神淡路大震災では、直接被害が約10兆円、間接的な波及効果も含めればその2-3倍程度の被害があったと推定される。しかし、鉱工業生産は地震のあった95年1月のみ前月比でマイナスであり、それ以降はプラスになった。GDPも95年第1四半期に前期比年率3.4%成長した。
今回の被害は、大津波による広域なインフラ破壊、原発・電力不足問題も含めると、阪神淡路大震災をはるかに上回るであろう。加えて、事故を起こした原発の処理費用も無視できない。復興事業費も阪神大震災の16.7兆円を大きく上回ることになろう。
ちなみに、チェルノブイリ事故では、住民の被爆治療、移住、原発周辺の土地整備、発電所を覆う石棺などの費用が2350億ドルに上り、さらに石棺の補修に10億-20億ドルかかると推定されている。
全国電力の4割を供給している東京電力の25%供給カットが、4月以降も続くとすれば、GDPも前半は落ち込み、復興需要が出てくるのは年後半以降になるであろう。
政策対応
金融面では、日本銀行が金融面で潤沢な資金供給を行っていること、35兆円の基金を40兆円に拡大していることもあり、円高を抑制するよう作用している。しかし、介入政策の備えは必要だ。
日本経済の自律回復力はまだ脆弱であり、財政の対応力も低下している。IMFの見立てによれば、日本の「フィスカル・スペース」は、残念ながらゼロである。
活用余地が限定された財政面での対応を工夫すべきだ。まず、第一段階として3月末までに、予備費と子供手当て・高速道路料金引き下げ・戸別農家所得補償など新規施策の廃止による歳出の組み替えによって総額5兆円規模の「経済復興補正予算」を与野党一致で作成すべきだ。その財源を被災地・被災者支援、インフラ整備、経済活動正常化、原発事故処理に充当すべきである。
第2段階としては、同規模以上の「復興税」を化石燃料使用に臨時的な措置として課し、その財源を新たなエネルギー開発・創出および安全基準引き上げに伴う原子力発電所の整備に充当することによって、中長期的に日本の電力供給を確保する体制を整えるべきだ。
バックナンバー
- 2023/10/23
-
「デリスキング」に必要な国際秩序
- 2023/08/04
-
妥当性を持つ物価目標の水準
- 2023/05/12
-
金融正常化への険しい道筋
- 2023/02/24
-
金融政策の枠組みを問う
- 2022/11/30
-
中国を直撃する米政権の半導体戦略