電力不足問題と復興税
2011/04/22
今夏に電力が関東・東北で、それぞれ800万~1000万kW、330万kW不足すると予想されている(表)。東京電力の4月末の電力供給量は、4300万kWと見込まれる。電力不足の著しい関東では、夏の電力需要量は、5400万~6000万kWである。酷暑の場合には、6000万kWに達する。
東京電力は、火力発電所の稼働率を高めたり、ガスタービンを増設したり、自家発電分を活用することによって5000万~5200万kWまで供給量を高めることが可能であるとしているが、酷暑になった場合には、やはり800万~1000万kW不足する。
3月から4月にかけて実施された「計画停電」は、企業の生産活動にとって生産計画を立てることが不可能な、不都合な方法であった。企業にとっては、生産計画の立てやすい総量規制の方が、対応が容易であるとの議論も踏まえて、資源エネルギー庁は、電気事業法27条に基いて、今夏、東京電力の電力大口需要者については、25%の削減、小口需要者については20%、家計については15~20%の削減を行うことを決定した。
この量的規制の問題は、小口需要者、家計に関しては、節電を呼びかけることはできても、量的規制を強制することはできないことである。このため、供給不足による停電が発生しないかどうか確実でない。
通常、財・サービスの供給不足に対しては、価格の上昇によって、すなわち、量的割り当てではなく、価格による割り当て(需要超過になる部分について価格を高めること)を活用する方が、資源配分の上でより効率的な結果をもたらすはずである。電力供給不足に対して電力料金を引き上げることは理に適った方法である。しかし、その一つの問題は、大震災・津波や原発の被害を受け、電力不足下にある東北、関東の人々のみが、電力料金の引き上げという追加的な負担を引き受けなければならないところにある。
日本経済研究センターが、3月17日に公表した緊急政策提言では、総額10兆円を2回の補正予算で実施することを推奨した。1回目は、2011年度の歳出見直し(子ども手当、高速道路料金引き下げなどの凍結)で5兆円、2回目は、復興税(化石燃料税)で5兆円という内容である。
2回目の復興税(化石燃料税)の狙いは2つある。まず、第1に、価格メカニズムを活用して、供給制約下の電力の効率的な配分を実現しようとするものである。同時に結果としての電力料金やガソリンなどの価格引き上げは、国民全体が負担する連帯税としての性格ももっている。
この提案に対する批判は、経済活動が落ち込む時期に、増税はありえないというものである。しかし、電力の量的割り当てにもやはりコストがかかっているのである。燃料税の引き上げは、全国の電力料金を高めるが、量的割り当てのコストを価格の形で明確化し、そのコストを広く負担するに過ぎない。電力供給不足の解消には、いずれの方法でもコストがかかることを忘れてはならない。被害の著しい地域に関しては、電力は地域独占であるので、電力料金を据え置くことも可能である。
第2に、中長期的にこれまでのような原子力発電に頼った電力供給が十分に行われず、しかも、緊急時はともかくとして、賦存量の限られた原油など化石燃料に大きく依存することはできない。化石燃料に対する課税は、太陽光、風力、地熱など代替エネルギーによる電力供給を促進する効果がある。中長期のエネルギー・電力供給の制約に対しては、価格シグナルを活用することが最も有効である。
希少資源である原油価格の高騰によって、日本は、これまで大幅な交易条件悪化を通じて産油国への実質所得の移転を行ってきた(図)。04年半ばから07年夏にかけての原油価格の高騰時には、20兆~25兆円規模の実質所得の移転があった。先行きについてもエネルギー供給を原油に依存した状態を続けるとすれば、より大規模な実質所得移転をしなければならない。
2回目の補正予算において、5兆円の燃料税を課すことは、短期、中長期のいずれの観点からも日本経済の復興と整合性のある政策といえる。
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