IMFの融資枠拡大と金融危機予防会議の設置を―11月のG20首脳会議に期待する
2011/10/18
G20財務相・中央銀行総裁会議は10月15日に閉幕し、欧州財政金融危機について欧州金融安定化基金の再強化と欧州における銀行の資本強化を含めた金融システム安定を要請した。新興国は、「国際金融安定網」として国際通貨基金(IMF)の資金基盤拡充を訴えたが、共同声明に盛り込まれることはなかった。
アメリカ、イギリス両政府は、財政制約から現在以上のIMF資金拡充には反対した。ガイトナー米財務長官は、「IMFには、まだコミットしていない資金が十分ある」と説明した。また、ユーロ加盟国以外の国も、ユーロ圏の問題なので欧州レベルで解決すべきであると主張した。しかし、IMFの融資規模は、本当に十分であろうか?
不十分なIMFの資金力
IMFの融資枠は、2009年4月のG20ロンドンサミットで従来の融資能力の3倍に当たる7500億ドルに拡充した。この拡充には、日本のイニシアティブ発揮も貢献した。
2011年第3四半期以降に利用可能な、まだコミットしていないIMFの資金は、2460億SDRであり、ドルに換算すると3860億ドル、ユーロに換算すると2800億ユーロである。イタリアの国家債務の1.8兆ユーロと比較すると余りに小さい。イタリア債務残高の15%でしかない。
仮にEU諸国が、欧州金融安定化基金をさらに拡充するとしても、危機が規模の大きな国に伝染した場合には、IMFは、これまでのような形での融資には応ずることが不可能であろう。
そもそもIMFは、その発足当初から金融センターや大国で金融危機が発生した場合、国際的な「最後の貸し手」の役割を担うことが出来るように設計されていなかった。
歴史を振り返ると、IMFは成立して間もなく、大国が危機に陥った場合に、国際流動性を供給するうえで資金が十分でないことが明確になった。このため、イギリスの国際収支危機に際して、IMFに「一般借入取極」が締結された。
戦前の「BISヴュー」を代表した論客のヤコブソンは、戦後3代目のIMF専務理事になり、この取極めに尽力した。当時、日本は、まだ先進国の十分な一員とは見なされていなかったが、日本政府代表IMF理事の鈴木源吾氏は、この取極成立に重要な役割を演じ、G10のメンバー入りを果たした。
強固な国際金融網の構築を
韓国は、2010年11月のソウルG20首脳会議の準備過程において、米連邦準備制度理事会(FRB)のスワップ協定とIMFの緊急融資プログラムをリンクした「国際金融安全網」の設立を提案した。この提案は、モラルハザードを高めるなどの理由から採用されなかった。
FRBを中心とするドル資金供給スワップ協定は、2007年12月の欧州中央銀行(ECB)、スイス国民銀行とのスワップに始まる第1次スワップ協定から、2008年9-10月のバンク・オブ・イングランド、日本銀行、カナダ銀行、韓国銀行などを含む第2次スワップ協定へと大きく展開した。スワップ金額は、一時6200億ドルに達し、FRBのバランスシートの規模を大きく押し上げた。
韓国は、2008-09年の2回目の通貨危機に直面して、IMF融資に頼らなかった。1回目の通貨危機におけるスティグマが強かったからである。また、チェンマイ・イニシアティブによる資金を活用することもなかった。借入資金の規模を考慮すると、チェンマイ資金を活用した場合でも、韓国が事実上IMFのコンディションナリティの下に置かれる可能性が高かったためである。
韓国において、FRBとのスワップ協定は、自国の外貨準備を活用するよりも金融市場を安定化する効果が大きかった。資金の借り手にとって、FRBからの資金借り入れの方が、韓国中央銀行からの借り入れよりも市場の信頼が高かったことと、スワップ協定による資金供給は、事実上韓国の外貨準備を増加させる効果をもったからである。
今回のグローバルな金融危機において中央銀行間のスワップ協定は、画期的な中央銀行間の協調行動であり、金融市場のドル流動性危機を鎮静化し、市場ストレスを低下させた。その一方で、インドネシア政府は、FRBとのスワップ協定締結を望んだか、実現しなかった。
かつて、ピーターソン研究所のトルーマン氏は、FRBを中心とする中央銀行のスワップ協定網をIMFに移管してはどうかと提案したことがある。韓国提案もこの線上にある。グローバルな流動性危機を回避するためには、より強固な「国際金融安全網」の構築が求められる。先進諸国は、いずれも財政危機のリスクに直面している。しかし、先進国の金融財政面でのショックが新興国や発展途上国に与えるマイナスの効果は余りに大きい。また、仮にギリシャがユーロ圏を離脱した場合に、その破綻処理は誰が責任をもって行うのだろうか?日本を含め先進国の政府は、IMFの資金基盤強化を急ぐべきである。
スピルオーバー効果の議論、対応策が肝要
さらに、IMFの資金基盤強化よりも重要であるのは、今回のような財政金融危機を事前に防止することである。IMFは、多角的なサーベイランスの一環として財政金融政策の海外諸国へのスピルオーバー効果の分析を強化している。
金融センターの金融政策や金融面でのショックに関するスピルオーバー効果を事前に十分に議論し、その対応策を事前に準備しておく必要がある。
ブルッキングス研究所は今年9月に「中央銀行制度再考」という報告書をまとめた。そこでは、新たな中央銀行の任務として、伝統的な物価安定のみならず、マクロプルーデンス政策の実施を位置付けるべきであるとしている。中央銀行集団からなる「国際金融政策会議」を定期的に開催し、世界のリーダーに対して主要国の政策の国際的な帰結について報告すべきであると勧告している。
この提案は、本来IMFが多角的サーベイランスの一環として実施すべき事柄であるように思われる。また、会議の名称も「国際金融政策会議」とするよりも「金融危機予防会議」とすべきであろう。専門家集団による勧告は、世界経済の安定的な発展に大きく寄与することになろう。11月のG20首脳会議が「国際金融安全網」と「金融危機予防会議」について建設的なステップを踏み出すことを期待したい。
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