一覧へ戻る
岩田一政の万理一空

コロナ禍の地政学的帰結

 

2021/01/13

 新型コロナの第3波が吹き荒れている。ワクチン開発が進み、日本でも来年末までのワクチン配布と接種終了への期待が高まるが、経済の回復にはまだ時間が必要だろう。

 コロナ禍からの回復が目覚ましいのが中国である。2021年末には、コロナ前の経済活動水準を1割程度上回ると予測される。一方、米国はその時点でもコロナ前と同水準にとどまろう。米国の潜在成長率が中国の半分程度であることを考慮すると、両国の経済規模は、20年代末には逆転する。19年末に公表した日本経済研究センターの長期予測では、米中逆転は30年代前半と予測していたが、その時期は前倒しされよう。

 11月に署名された東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、インドが加盟せず中国の「一帯一路」戦略を強化する結果になった。習近平(シー・ジンピン)国家主席は、環太平洋経済連携協定(TPP)加盟に言及し、太平洋地域での影響力拡大を誇示した。「日中韓賢人会議」で、中国の世界貿易機関(WTO)加盟交渉者は、一貫して中国のTPP加盟を主張していたが、現体制下で中国が市場経済化を貫徹することは困難だ。中国のTPP加盟表明は、かつて米中軍事対話で人民解放軍幹部が米軍司令官に対し、世界地図のハワイ諸島近辺に線を引き、太平洋を二分する構想(第3列島線)を示したことを想起させる。

 日本は、米国のTPP加盟を慫慂(しょうよう)するだけでなく、9月の日豪印経済大臣会合で合意したサプライチェーン再構築を加速する必要がある。デジタル技術を使った国際貿易の効率化を目指し、シンガポールがオーストラリア、チリなどと結んだデジタル経済協定と連携し、データの相互運用性を可能にする枠組み強化も求められる。

 科学技術面での中国の追い上げは目覚ましい。中国政府は人工知能(AI)、5G(第5世代移動通信システム)、量子コンピューターなど先端技術の開発に約10兆元を投じ、自立的な技術確立で中所得国の罠(わな)を脱し、中位の先進国入りを目指す。

 中国は光方式を用いた量子コンピューターで、先行する米グーグルに肉薄しつつある。AI技術を巡るベンチャー企業のエコシステム発展も目覚ましい。認識型AIの分野では米国を追い越し、コロナ禍によるデジタル転換の深化もあって、自律型AIの発展に拍車をかけた。

 問題は、自律型AI技術が自動運転車のみならず兵器に応用されることだ。戦争は、技術によってその様相を変化させる。現代の戦争は、通常兵器による軍事的手段のみならずサイバー攻撃、経済制裁、情報操作など非軍事的手段を組み合わせる「混成戦争(ハイブリッド・ウォー)」となっている。さらに兵器の自動化によって「超戦争(ハイパー・ウォー)」へと展開しつつある。

 ここでのリスクは、AIのデータ収集、判断のスピードが人間の能力を上回るために戦争が自動化されることだ。中国が米国と経済力、軍事力で肩を並べ、上回ったと認識した場合に、偶発戦争のリスクが高まることになる。

(2020/12/25 日本経済新聞朝刊掲載)