グリーンフレーションと移行リスク
2021/12/23
新型コロナウイルスの「オミクロン型」の出現は、株価のみならず原油価格も急落させた。日本経済研究センターは、経済社会活動を一気に正常化すれば、コロナ第6波は年末に始まり、来年1月中下旬にピークに達すると予測していた。新変異型の発生は、第6波感染の波をより大きなものにしよう。
欧州では、グリーン・エコノミーへの転換の遅れと化石燃料、とりわけ天然ガスの供給不足から、エネルギー価格が急上昇する「グリーンフレーション」が発生している。
商品市場には、価格上昇と下落を25年周期で繰り返す「スーパーサイクル」がある。2021年に原油価格が上昇した要因の一つは、08年をピーク、20年4月を底とするスーパーサイクルだ。
もう一つの要因は、脱炭素社会への移行の遅れだ。国際エネルギー機関(IEA)は、現在の政策を前提にすると原油価格は30年に1バレル77ドル(20年時点の推計、2%インフレを仮定すると94ドル)まで上昇すると予測する。他方、50年に温暖化ガス排出を実質ゼロにできれば、化石燃料への需要減で、同36ドル(同様に44ドル)にとどまるとされる。
緊急備蓄放出や産油国への増産要請は、緊急対策の意義はあるにしても、脱炭素社会への移行を遅らせる。日本ではガソリン価格上昇に対して石油元売り業者へ補助金を供与する政策が採用されたが、第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では化石燃料への補助金廃止に向けた努力を決議している。エネルギー関連支出シェアが大きい低所得層への補助金供与が望ましい。
バイデン米大統領も指摘したように、ただちにグリーン経済へ転換するのは困難だ。ブラウンからライトブラウン、グリーンへと、段階的な移行が求められる。この中継ぎを可能にするのが移行ファイナンスだ。ただし、この移行ファイナンスも最終的にグリーン転換が実現されるのか、パリ協定と整合的か、しっかり吟味する必要がある。
原油価格上昇の抜本的な解決策は、省エネを進め、「デジタル・グリーン・エコノミー」へ産業構造を転換することだ。そのためには炭素税など、二酸化炭素(CO2)排出に価格付けするカーボンプライシングが不可欠だ。
残念ながらCOP26では、カーボンプライシングが議題に乗ることはなかった。国際通貨基金(IMF)は、発展途上国、中所得国、先進国がそれぞれ、CO2排出量1トン当たり25ドル、50ドル、75ドルの炭素税導入を提言している。その税収は、再生エネルギー支援、低所得層への補助金、労働所得の限界税率引き下げに活用することが可能だ。
ただし、グローバルな資源配分の観点からは、複数ではなく、一つの炭素価格が望ましい。また、共有資源の最適な利用については、適切なモニタリングと違反行動に対する段階的な制裁の下で、「あなたが実行すれば、私も実行する」という戦略に参加国が共通にコミットすることが有用だ。最低法人税率導入に関する成果に照らしても、世界で均一の最低炭素税率導入を急ぐべきだ。
(2021/12/17 日本経済新聞朝刊掲載)
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