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岩田一政の万理一空

日本経済に「2008年」の予感

 

2022/03/03

 足元の日本経済は、2008年を想起させる。第一の類似点は08年に1バレル147ドルまで上昇した原油価格だ。現状はその水準からはまだ低いものの、ウクライナへのロシアの軍事行動、欧米による対ロ経済制裁によっては、150ドル程度まで急上昇しよう。

 08年は、価格上昇と下落の「スーパーサイクル」がピークに達したことと、コモディティの金融商品化が要因だった。今回は脱炭素社会への移行リスクによる「グリーンフレーション」と、ウクライナ情勢が主因だ。

 ハース米外交問題評議会会長は、ウクライナと台湾は領土問題としてパラレルな関係があると指摘する。マクマスター元米大統領補佐官は、14年ソチ冬季五輪後にロシアがクリミアを併合した例に照らし、北京冬季五輪終了後の台湾有事リスクに警鐘を鳴らす。リスクがさらに高まれば、資源価格全般に衝撃を与えよう。

 原油価格上昇の対応策として、政府は石油元売り会社へ補助金を出している。代替案として、ガソリンの暫定税率を引き下げるトリガー制度の活用が考えられる。

 現行のガソリン課税を炭素税に換算すると、二酸化炭素(CO²)1トン当たり2.3万円だ。日本経済研究センターが提言する炭素税1.2万円を目指し、排出量に比例した税率構造の「グリーン税制」を実現すれば、税率引き下げ余地がある。 同時に、太陽光発電に関する固定価格買入れ制度による家計負担は、炭素税換算で3.1万円との試算もある。この負担分を炭素税へ組み入れることも可能だ。

 08年との第二の類似点は、消費者物価の上昇率だ。前回は一時的ではあるが生鮮食品を除く「コアCPI(消費者物価指数)」は2.3%まで上昇した。エネルギー価格の上昇と円安傾向の強まりがあれば、昨年の通信料引き下げ効果の剥落もあり、消費者物価上昇が4月以降、2%に達することも十分にありえる。

 米連邦準備理事会(FRB)は、資産買入れ額の縮小(テーパリング)を3月に終え、年内4-5回の金利引き上げと,年後半にはバランスシート縮小に乗り出す。この大転換は、前回15年からの金利引き上げより早いスピードで、17年からのバランスシート縮小(約0.8兆ドル)より数倍大きな規模となろう。

 他方、日銀は、16年のイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)政策の採用以降、資産買い入れの規模を縮小してきたが、新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラムの見直しで、4月以降マネタリーベースの縮小が見込まれる。物価目標2%を超えてもマネタリーベースの伸びを維持すると約束しており、縮小が一時的にとどまれば、金利と量的側面の両方からドル高・円安圧力が高まる。

 08年2月に日本経済は景気後退に陥った。足元の景気は交易条件の大幅悪化と新型コロナウィルスの変異型「オミクロン型」の影響で一進一退を続け、スタグフレーション再来のリスクがある。 08年との第三の類似点だ。

 米国は今、インフレ持続というリスクに直面しているが、08年9月にリーマン・ショックが襲ったことも忘れてはならない。

(2022/2/25 日本経済新聞朝刊掲載)