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岩田一政の万理一空

金融政策、望ましい「指針」へ転換を

 

2022/07/22

 日本の金融政策は、身動きのできない状況にある。新型コロナウイルス感染症とロシアのウクライナ侵攻で、物価上昇と景気後退リスクが同時に高まるスタグフレーション圧力にさらされているからだ。

 金融政策は、インフレ阻止と景気後退回避の二兎(と)を追うことはできない。

 足元の物価動向をみると、エネルギー・食糧の輸入価格が急上昇し、生鮮食品を除く消費者物価の上昇率は目標の2%を超える。一方、国内付加価値の価格指数で物価の動きを示すGDP(国内総生産)デフレーターは、まだデフレ領域(2022年第1四半期で前年比マイナス0.5%)だ。需要と潜在的な供給力の差を示す「需給ギャップ」はマイナス3%を超え、引締め転換は可能ではない。

 日銀は円安による輸入インフレで国内産デフレを解消しようとしており、国債を無制限に買い入れる指し値オペで長期金利の上限(0.25%)を死守している。だが、この戦略には交易条件悪化という落し穴がある。

 外貨建てと円建て、それぞれの輸出入価格比率の変化率で円安の影響を測ると、交易条件悪化の4分の1は円安だ(22年第1四半期)。交易条件悪化による実質所得の国外流出は11兆円を超える(年換算)。日本は、円安で生産(実質GDP)が増加しても、所得の国外流出と輸入インフレによって家計の1人当たり実質消費が減少する「窮乏化成長」に陥っている。

 13年から21年にかけての平均名目成長率は1%、実質は0.5%弱だが、1人当たり実質消費は金融危機前と同水準だ。政策目標は国民生活の豊かさを示す1人当たり実質消費水準にすべきだ。

 長期金利は為替レートの固定と同様、経済の基礎的条件が変化すればコントロールが困難になる。オーストラリア準備銀行(中央銀行)は、政策金利据え置きのフォワードガイダンス(先行き指針)を示し、3年国債の利回り誘導目標を設定したが、目標撤廃に追い込まれた。日銀の長期金利上限値設定も同様の指針と解釈できるが、経済が大きく変化すれば機能しない。経済指標と関連付けた指針への切り替えが望ましい。

(2022/7/15付 日本経済新聞朝刊掲載)