グローバリズムの衰退:民主主義と専制主義の戦い
2022/09/27
世界金融危機や米中対立、新型コロナウィルスの感染拡大、そしてウクライナ戦争を経る中で、グローバリズムはピークアウトした。世界の供給網は、生産拠点を国外に移す「オフショアリング」から、国内回帰の「リショアリング」や友好国や近隣諸国での立地を重視する「フレンドショアリング」、「ニアショアリング」の時代に入った。
米国は欧州連合(EU)とは「貿易技術評議会(TTC)」、アジア太平洋諸国とは「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を通じて、ロシア、中国に対抗する強靭な供給網の構築を目指している。
2018年にマティス国防長官(当時)の下で作成された米国の国家防衛戦略報告書は、第2次世界大戦が民主主義とファシズムの戦いだったとし、勝利した英米の主導で維持されてきた自由な国際秩序が、専制主義の台頭で掘り崩されていると論じた。また、米国の防衛産業の供給網が、中国製品・技術に依存することは安全保障上の大きなリスクだとして、中国の地域覇権確立を阻止する「拒否戦略」を打ち出した。
この「拒否戦略」では、軍事戦略の観点から不可欠の同盟国(地域)として台湾、日本、韓国、フィリピンをあげ、中国の地域覇権に反対する連合国(地域)を選定している。しかし、その判断基準はあくまでも軍事戦略上の必要性に基づくものだ。
フレンドショアリングの問題は、どの国がフレンドであるのか明確ではないことだ。経済の観点からは、南シナ海における航行の自由と同じく、自由な交易確保が最善の選択であり、自由な経済秩序と世界平和の維持は、民主主義国共通の課題だ。
8月末に来訪したドイツのウルフ元大統領は、ウクライナ戦争は民主主義と専制主義の戦いであり、その勝利には民主主義国の強い連帯と支援が不可欠と述べた。
専制主義国による武力行使は、世界の脅威だ。
8月初旬、米戦略国際問題研究所(CSIS)は台湾有事の机上演習(戦争ゲーム)を実施した。26年に中国が台湾南部に侵攻し、日本の米軍基地を攻撃するとの想定だ。台湾は甚大な損害を被るが、米・台湾軍は何とか持ちこたえるとの結果だった。
しかし、過去に実施された米シンクタンクのランド研究所による机上演習の結果は異なる。中国が世界最大の経済強国となる30年代半ばの人工知能(AI)主導型「ハイパーウォー」では、AIをフル活用する中国・北朝鮮連合軍が、AI使用に人的介入を求める米国・台湾・日本・韓国連合軍より優位に立つ。
台湾有事でも最悪の結果は核戦争だ。「拒否戦略」や机上演習では、互いの壊滅的な破壊につながる選択はしないと仮定している。ウクライナ戦争の場合、ウクライナは1994年のブダペスト覚書に基づき、英米露3国が国の安全を保障するとの条件の下、保有する核兵器をすべて撤去したが、ロシアによる核兵器使用のリスクは消えていない。
世界は今、心の内なる道徳律を貫き、世界の平和と核兵器の恒久廃絶を実現する「毎日カント主義者」を必要としている。
(2022/9/16付 日本経済新聞朝刊掲載)
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