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岩田一政の万理一空

中国を直撃する米政権の半導体戦略

 

2022/11/30

米バイデン政権は10月7日、先端半導体を対象に新たな対中国輸出規制を公表した。

 台湾有事リスクが拡大する中、中国の関連産業をグローバルサプライチェーンから隔離する政策といえる。米中の「技術卓越性」を巡る争いは頂点に達しつつある。

 先端半導体に関する中国隔離政策はアメとムチからなる。ムチは、外国企業も含め米国の技術を使用した関連製品・技術の輸出を禁止する措置だ。さらに、米政府の補助金を受けた企業の新規投資を禁じ、米国籍を有する人材が先端分野製造施設で生産能力を高めることも禁止した。

 米国輸出規制の専門家ケビン・ウルフ氏は、外国企業も対象とするのは、中国の軍民融合体制の下での華為技術(ファーウェイ)に対する制裁措置が不十分であるほか、米国企業が他国企業との競争上不利になることを回避するためとしている。しかし、米国の国内法・規制を外国企業に域外適用することは、国際法上問題がある。軍民両用技術に関する多国間合理を取り付けることが望ましい。

 アメは、先に成立した「CHIPS・科学法」に盛り込んだ527億ドルの補助金供与で、米国で生産・技術開発する外国企業も対象となる。先端半導体は経済安全保障上の戦略物資だが、生産は台湾と韓国に集中しており、米国への誘致を目指す。日本の半導体産業の世界市場シェアは10%程度だが、半導体製造措置、素材の分野では存在感がある。外国企業も対象とした規制付きの補助金供与は、国際ルールとの整合性という問題は残るものの、日本にとっては半導体産業復権の機会となろう。

 日本企業は今回の輸出規制に関連して、米国の先端技術が生産過程のどの部分で使われているか、必死で探っている。半導体分野では自社技術と補完的な他企業の特許を利用する必要がある。また、国境を幾度も超えるサプライチェーンが複雑に絡み合い、中国を含めたコンピューター関連産業の国際的な相互依存関係は極めて高い。今回の輸出規制実施は中国関連の半導体・コンピューター貿易を大幅に縮小させよう。

 なお、バイデン政権は気候変動やインフレ対策の関連法で、電気自動車(EV)購入の補助金対象を北米で最終的に組み立てられた車両に限定した。韓国企業は、米国と自由貿易協定(FTA)があるにもかかわらず、輸出したEVが補助金の例外とされ、怒りを爆発させている。欧州連合(EU)もEV車生産の北米シフトを懸念している。

 同じ関連法では、バッテリー生産に不可欠な原材料を「懸念される外国企業」からの輸入に依存することを禁止している。原材料の生産・加工段階で中国の市場シェアは極めて大きい。この分野でもグローバルサプライチェーンの再構築は避けられまい。

 外国企業を差別的に扱うようなEV補助金は、世界貿易機関(WTO)ルールに抵触する可能性が高い。アジア諸国とは「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)、欧州諸国とは「技術貿易評議会」(TTC)での協議による撤廃を期待したい。

(2022/11/25付 日本経済新聞朝刊掲載)