消費税が嫌われる理由
2016/03/22
直接税と間接税
「消費税と所得税の違いは何か」と税法学者や財政学者に聞けば、「消費税は間接税で所得税は直接税」だと答えるはずだ。
直接税というのは、法律上の納税義務者が最終的に税の負担者となることを予定した税だ。これに対して間接税は、法律上の納税義務者が商品やサービスの価格に税を上乗せして転嫁し、その商品やサービスの購入者が税の負担者となることを予定している。
給与所得者を考えると、給与の支払いを受けている人が所得税の納税義務者で、その人が給与所得にかかる税金を負担しているから、所得税は直接税だということになる。
消費税の納税義務があるのは、商品やサービスを販売している側だ。しかし、消費税は価格に上乗せされているので、消費税を支払うのは、商品やサービスを購入する消費者だということになる。消費税と名前が似ている税金に支出税と呼ばれるものがある。支出税というのは、所得から貯蓄の純増分を差し引いた支出額に対して直接税として課税するものだ。直接税の場合は、税を支払う人に応じて累進的に課税することができるけれど、間接税の場合は比例税が原則になる。
以上のように、消費税と所得税は、間接税と直接税で、全く異なるものだ、というのが、税の実務担当者の答えだろう。おそらく、一般の人もそう言われると納得するはずだ。
経済学者の理解
経済学者は、所得税と消費税について一般とは異なる理解をしている。日本の所得税は確かに累進的になっているが、税率は既にかなりフラット化されている。多くの人は少し所得が増えても、直面する税率そのものは変わらないだろう。特に、住民税なら定率の10%になっている。そうであれば、追加的に得られる所得に対してかかってくる直接税と追加的に支払わねばならない消費税では、支払う側にとっては、どちらも同じような負担になるはずだ。その意味で、フラットな税率の所得税と消費税の間には、実質的な差がないと多くの経済学者は考えているのだ。
消費税の場合に、税金を直接支払う人が税金を全く負担していない、という点も経済学者の理解は異なる。価格に消費税分を上乗せした場合に、価格が上がったために売り上げが減ってしまうのであれば、売り上げが減った分は消費者ではなくて売り手が負担しているのである。間接税だからといって、納税義務者が税金を負担していていないというわけではないのだ。
同様に、所得税が課せられた人は、税引き前の賃金をもとに労働時間や努力の程度を決めているわけではない。税引き後の賃金をもとに、労働時間や努力水準を決めている。税金を支払う側の労働者が、税金が課せられたために、労働時間や労働生産性を減らしたとすれば、賃金を支払っている側が税金の一部を実質的に支払っていることになる。つまり、直接税だからといって、税金を支払っている人だけが、その税金を負担しているわけではないのだ。
20%の定率所得税と20%の定率消費税
定率の所得税と定率の消費税は、どちらも同じだと多くの経済学者は考えている。だからといって、20%の定率の所得税と20%の定率の消費税は同じではない。20%の定率消費税の方が、20%の定率所得税よりも、税金は安い。これは消費税なら貯蓄できるから、という話ではない。
たとえば、100万円の年収の人がいるとすれば、20%の定率所得税の場合に、この人の税負担額は、100万円×20%=20万円である。
いま、所得税がゼロ%で消費税が20%だったとして、この人が100万円全部を消費にあてたとしたとしよう。その時の消費税の負担額は、100万円×(0.2/(1+0.2))=16万6666円になる。20%の消費税だと約16万7千円なのだから、消費税の負担の方が軽いのだ。
定率所得税率が20%のときと同じ税負担額になる定率の消費税率は25%だ。これは、100万円×0.25/(1+0.25)=100万円×1/5=20万円で確かめられる。
消費税は、商品価格に税率がかけられて、税金を足した金額を支払うのに対し、所得税は所得に税率をかけたものを差し引いた額を受け取るから、税率をかける母数が所得税の方が大きいのが理由だ。
消費税率が8%の場合、約7.4%の定率の所得税と等しい税負担になる。消費税が10%になった場合は、それを定率所得税で取るとすれば、税率は約9.1%に相当する。同じ税収を得るためには、消費税の方が所得税よりも名目的な税率は高くなるのだ。
計算間違いと消費税嫌い
私たちは、被験者を集めて、人々が消費税か所得税がどちらの税金を好むのかという経済実験を行った(大竹・黒川・森(2015))。実際に謝金を支払う形で、いくつかの税率で比較した。所得税20%と消費税24%の場合は、手取り額は消費税の方が多くなるにもかかわらず、約70%の被験者は所得税20%で謝金をもらうことを選択した。どちらも同じ金額になる所得税20%と消費税25%の場合でも、約75%の人が所得税を選ぶという結果となった。
人々が所得税を好んでいるわけではない。所得税も消費税も20%の場合は、約60%の人が消費税を選んでいるのだ。つまり、多くの人は名目上の税率が同じなら税負担額も同じだと誤解しているだけではなく、税率が同じなら所得税よりも消費税を好んでいるようだ。消費税は日本人に相当嫌われているようだが、所得税よりも見かけ上の税率が高くなることもその理由の一つかもしれない。
文献
大竹文雄・黒川博文・森知晴(2015)『所得税と消費税の好みに対する選択実験』2015年度行動経済学会報告論文
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