輸出はどの程度高付加価値化しているか
2013/02/14
【産業構造の将来象】
筆者はかつて今後の産業構造の将来像の一つとして、「製造業製品の付加価値を高め、価格競争に頼らなくても輸出できるようにすること」に言及したことがあります(2012年5月14日付の当コラム「国際的なサプラーチェーンの行方」を参照)。これはイノベーションを積み重ねることにより、価格以外で競争できる品質面、性能面での質的な強みを強化することで、日本経済の再生を図る可能性を指摘したものです。
しかし、こうした方向性は、理屈では考えられるにしても、果たして本当に可能なのでしょうか。そもそも、この面での日本の過去のパフォーマンスはどうだったのでしょうか。
【輸出の高付加価値化指数】
この点をみるために、次のような輸出の高付加価値化の程度をみる指数を作成してみました。これは、高付加価値化が進んでいれば、同じ品目であってもその品目の平均単価は上昇しているはずだという仮説を前提に、貿易統計の価格指数(製品の平均単価を計測)と日銀企業物価指数にある輸出物価指数(製品のある銘柄の価格を計測)とから算出したものです。
ただし、多くの製品を含む総合あるいは類別でみると、付加価値の程度が異なる品目のシェアの違いの影響も受けます。これも品目構成が高度化しているか否かでみた高付加価値化であると考えられます。そこで、前者の単価の相対的な上昇で測った高付加価値化を「輸出品目の高級化」、後者の品目構成の変化で測った高付加価値化を「輸出構成の高度化」と名付け、両者あわせて高付加価値と考えることにしました(詳しくは(注)を参照)。
【2000年以降の全体的な動向】
この輸出高付加価値化指数の変化を、2000年以降の輸出全体についてみたのが、第1図です。
これによりますと、輸出の高付加価値化は、極めて緩やかにしか進んでいないことが分かります(2000年以降の平均は1.2%)。内訳をみると特徴的で、品目の高級化は期間中一貫して進んでいます(同4.7%)。しかし、同時にかなりの部分を相殺するように、品目構成の高度化は一貫してマイナスとなっています(同-3.3%)。つまり品目構成の面では、付加価値の低い製品にシフトしてわけです。これは実はパーシェ効果と言って、「安いものが売れる」という当然の結果を示すものです。しかし、ここでの問題意識は、「高いものでも売れる」ようにできないかというものです。それからすると、必ずしもそうはなっていないということになります。
この結果から読み取れる日本の輸出の一つの現実は、確かに個々の製品の高付加価化は進んでいるのだけれども、それが世界市場のニーズにマッチしていないために売れていない、ということです。この傾向は、1980年代末から1990年代初めにかけて観察された傾向と基本的に同じです(「平成5年度経済白書」第3章参照)。
【2000年以降の主力製品の動向】
輸出の高付加価値化は、日本の主力製品についてみたときに、どのようになっているのでしょうか。ここでは、一般機械、電気機械、輸送機械についてみてみます。
まず第2図で一般機械についてみます。これをみると、多くの時期で、高付加価値化はマイナスとなっています(2000年以降平均-1.4%)。これは、品目構成の高度化は進んでいるものの(同1.5%)、平均品目の高級化がマイナスになっているからです(同-2.7%)。一般機械では、輸出全体の傾向とは逆に、日本の高付加価値製品が世界的に求められているのにもかかわらず、品目の高級化が遅れている可能性があることが読み取れます。
次に、電気機械です。第3図によると、電気機械でも高付加価値化はマイナスになっています(2000年以降平均-4.0%)。内訳をみると、やはり品目構成の高度化はみられるものの、品目の高級化が遅れているという姿が読み取れます(それぞれ同4.3%、-7.6%)。
最後に輸送機械です。日本の製造業をこれまでけん引してきた産業なので、興味深いものがありますが、第4図をみると、高付加価値化はプラスになったりマイナスになったりしていますが、変動は極めて小幅(スケールが他の図と違うことに注目してください)で、しかも明確な傾向は読み取れません(2000年以降平均も-0.1%となっています)。
内訳をみても、輸出品目の高級化、輸出構成の高度化ともに、プラスとマイナスを繰り返し、傾向はみられません(それぞれ、-0.1 %、0.1%)。つまり、輸送機械の場合は、決して輸出市場のニーズに合っていないわけではありません。むしろパーシェ効果を相殺するだけの非価格競争力があるように見受けられます。しかし、他方、高級化の面で大きな変化がみられない、ということになっています。
【浮かび上がってくる課題】
以上で用いた輸出の高付加価値化指数は、いくつかの仮定に基づいて、二つの指数を組み合わせ、寄与度分解し、それの解釈を行っているので、幅を持ってみるべきことは確かです。しかし、暫定的に、以下のようなことを考えることもできるのではないでしょうか。
第1に、よく日本の技術力と言われるが、確かに輸出についてみると、それを反映するかのように、製品の高級化が実現しているように見えることです。ただし、輸出の主力である機械産業では、それを明確に観察することができません。今後とも高級化が持続するように、企業レベルでの研究開発面の努力はもちろんのこと、日本全体のイノベーション・システムの評価・改革も行っていく必要があると思います。
第2に、製品の高付加価値化を実現しても、それが売れなければ意味がありません。その面では、かなりの課題を残しているよう思えることです。確かに、付加価値の高い製品は先進国で売れるのに対して、現時点において市場が拡大しているのは新興国や途上国なので、高付加価値品の輸出を伸ばすことに困難が伴うことは想像に難くありません。しかし、そうした先進国でないところでも、高級品志向が強まっている中間層は拡大しているはずですし、携帯電話のように画期的なイノベーションは広範な市場に受け入れられるはずです。
産業構造の高度化の将来像を製造業に求めるのであれば、こうした課題の克服は避けて通れないように思われます。

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