外国人労働者受け入れの是非
2013/11/22
【遅れている外国人労働者に関する議論】
我が国が直面する人口減少に対応するための処方箋として、いくつかの重要な政策が注目されています。そのなかでも最優先に取り組まなければならないのは、女性の就業率を高めることです。働くことを希望しているにもかかわらず働けない女性がいるという現状は、本人が不幸であることはもちろんですが、社会的にも能力が生かされていないという意味で大きな損失です。これに取り組むことは当然です。
しかし、これが人口減少に対する対応策の全てでないことも事実です。もしこれが全てであるなら、仮に女性の就業率が上昇し、M字カーブが解消したあとはどうなるのでしょうか。それ以降、人口減少の負の影響を相殺することができないことになります。もちろん、年金の支給開始年齢の引き上げに伴って、高齢者の就業率を高める必要もあります。しかし、これとて限りのあることです。永遠に引き上げることはできません。
いうまでもなく根本的な解決策は、女性の就業率の上昇を進めながら、同時に出生率を反転上昇させることです。このために、保育所の整備を急ぐ、地域での育児支援体制を整える、企業でワークライフバランス改革を進めるほか、育児手当の充実を図ることは喫緊の課題です。しかし、残念ながら、仮に出生率の反転にあした成功したとしても、これが経済成長に貢献するのには、20年程度かかります。
そうなると、選択肢として残るのは、外国人労働者の受け入れです。外国人労働者を受け入れることによって、労働力人口が減少することの負の影響を相殺することです。この議論は、意識的か無意識的かは分かりませんが、日本ではあまり進んでいません。しかし、外国人にとっては当たり前の選択肢に映るようです。先日、米国のあるシンクタンク主催のセミナーで基調講演を行った際に聴衆から受けた質問も、「日本はかつて南米に移民を大勢出したのに、どうして自分では移民を受け入れないのか」というものでした。
【高度人材の受け入れについてはコンセンサス】
外国人労働者の受け入れといっても、高度な資質や能力を有する人材(いわゆる高度人材)をより積極的に受け入れることについてはコンセンサスがあるようです。新規性や創造性が問われるような分野では、日本人の発想と、異なる文化を背景にした外国人の新鮮な発想のぶつかり合いによって、新しいアイデアが生まれ、イノベーションの起点になることが期待されます。アベノミクスの成長戦略(「日本再興戦略」)でも、この点は認識されており、現在の優遇措置(「ポイント制」)の見直しが開始されようとしています。
【単純労働者の受け入れについての論点】
しかし、問題は、外国からの単純労働者の受け入れです。
単純労働者であっても、それが国内の経済活動に従事すれば、新たな付加価値(GDP)を生み出し、経済成長に貢献することになります(もっとも、短期滞在の外国人労働者が海外に送金をすると、それだけGNIが減少する可能性はありますが)。加えて、税収が増加し、社会保険料の支払いも増加するので、財政・社会保障制度の持続可能性にも一役買うことにもなると考えられます。
他方、単純労働者を受け入れるということは、これまでの生産要素の賦存状況を変化させ、日本の比較優位を資本集約的、知識集約的、技術集約的な財やサービスの生産から、相対的には労働集約的なものへと回帰させることになります。これによって新興国や発展途上国との競合を強めるとしたら、日本経済はますます厳しい状況に直面することになるかもしれません。
もっとも、単純労働者の受け入れについては、こうした経済的な議論とは別の次元で拒否反応が強いのが現状です。それは例えば、次のような問題があるからです。
第1に、日本人労働者の雇用を奪う可能性が危惧されることです。このことは日本だけでなく、外国でも問題になっており、主要先進国でも、外国人労働者の受け入れに際しては、自国民の雇用が奪われないことを条件とする「労働市場テスト」が採用されています。
ただ、自国民の雇用が奪われる可能性があるとすれば、それは高度人材にも当てはまるはずです。むしろ、人口減少社会は基本的には人手不足社会なので、そうした競合関係は小さくなるとも考えられます。さらに、外国から単純労働者を受け入れることで、日本人がより付加価値の高い雇用に従事することができれば、それによる経済的な効果も期待できることになります。
第2に、文化的・社会的な背景が異なる外国人が増加することによって、住民間の摩擦が増えたり、治安が悪化したりする可能性があることです。また、外国人労働者やその家族のために、住宅や教育その他の行政コストが増加することも指摘されています。
しかし、摩擦の増加、治安の悪化があるから外国人を受け入れないということになると、文化的・社会的な背景が異なるからこそ得られる刺激や経済活力を享受できないことになります。そこで、問題を分けて考え、外国人を受け入れてそのメリットを享受しながら、弊害があるのであれば、それには行政や警察で対応するという政策割り当てを考えても、それほど不自然なことではないのではないでしょうか。
また、行政コストについては、外国人労働者を受け入れなければ、地域経済は現状横ばいどころか、多くの場合、縮小均衡に陥っていく可能性があるのに対して、外国人労働者を受け入れることによって、前述のように税収や社会保険料が増加することになることも考慮する必要があるように思います。
【将来の国の姿は将来を担う世代に委ねる】
外国人労働者の受け入れの是非について答えを出すのであれば、以上のようなコストとベネフィットを踏まえて出さなければなりません。しかし、実は、その検討時間はあまり残されてはいないかもしれないのです。なぜなら、隣国のなかには外国人労働者に対する政策を転換させて、優秀な人材の受け入れに積極的になっているところも出てきているからです。韓国では、2003年の外国人労働者雇用法の施行を契機に、外国人との共生や国際結婚で生まれた子供への支援などを目的に法制が整えられ、外国人労働者に対する政策レジームの転換が図られています。
このため、仮に日本が外国人労働者を受け入れると決めたところで、実際に外国人労働者が来てくれるかどうかの保証はないのです。日本に比べて、米国はもちろんのこと、同じアジアでも韓国の方が魅力的である可能性があります。その時、第二の「ジャパン・パッシング」が起こることになります。外国人労働者に門戸を開けば、彼らは直ちに来てくれるはずだという発想は、現実とは大きく異なっている可能性があるのです。
つまり、日本は、あまり時間的な猶予がない中で、大きな選択をすることを迫られているのです―もっぱら日本人の高齢者ばかりが住む老大国を目指すのか、それとも日本人と外国人が共存する、活力ある経済大国を目指すのか。
どの道を選ぶかは、容易なことでありません。それは将来の日本の形を決めることでもあるからです。しかし、そうであれば、それは日本の将来を担う若者が決めるべきことなのかもしれません。そして、若者にその判断を任せた時、その選択は、保守的で、現状維持的になりがちな高齢者の選択とは違ったものになるかもしれません。その賢明な判断に委ねるのも一案ではないかと思います。
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