一覧へ戻る
齋藤潤の経済バーズアイ (第49回)

なぜG7で政策協調を行う必要があるのか?

 

2016/04/18

【間近に迫るG7サミット】

 5月25日~26日に開催予定の伊勢志摩サミットが近づいてきました。今年のサミットでは様々な重要テーマが議論されますが、その中の一つに国際的な経済政策の政策協調があります。世界経済の成長鈍化と先行きに対する不透明感の高まりを受けて、G7各国がどれだけ景気刺激策をとるのかが焦点になりそうです。

 ところで、そもそもどうしてG7の間で経済政策の政策協調が必要なのでしょうか。実は、そのことは必ずしも自明ではありません。なぜなら、一定の条件が満たされていれば、各国はそれぞれが望ましいと思っている政策目標を、自らの力だけで(つまり外国の力を借りずに)実現することができるからです。

【ティンバーゲンの定理】

 これを証明したのがティンバーゲンの定理です。

 仮にある国の経済に内生変数がX個と外生変数がY個あったとき、経済全体を内生変数の数に等しいX本の独立した方程式で表現できるとしたら、内生変数はすべて解を持つことになり、経済は一つの体系として成り立つことになります。

 ここで、この国は内生変数のうちのN個に政策目標を設定したいと考えたとします。政策目標は特定の数値ですから、この時点で、これらの内生変数は外生変数になります。しかし、ここで問題が生じます。X-N個の内生変数に対して、方程式はX本あるからです。過剰決定になって、全ての内生変数に解があることは保証されません。この体系は成立しないかもしれないのです。

 この問題を解決するのが、目標を実現するための政策手段の設定です。Y個の外生変数の中から、政府によってコントロールできるN個の変数を政策手段と決め、政策目標を実現できるように逆算してその政策手段の値を求め(つまり内生的に値を決め)、その値になるように政策運営をするのです。政策目標の設定によってN個の内生変数が失われましたが、政策手段をN個設定することによってN個の変数が新たに内生変数に加わり、最終的には再びX個の方程式に等しいX個の内生変数が確保されることになるのです。

 こうしたことから、ティンバーゲンの定理は、「N個の政策目標を実現するためには、K個の政策手段が必要で、これが確保できれば、これらの政策目標は基本的に実現できる」というように表現されています。例えば、政策目標として、完全雇用と物価安定の2個を掲げるのであれば、財政政策と金融政策というように政策手段も2個必要で、それさえ確保できれば、2個の政策目標は実現できるというわけです。(それでは、このN個の政策目標に対して、どのようにN個の政策手段を割り当てるのか。それが次の問題です。これに対する答えがマンデルの定理です。これによって、例えば、なぜ金融政策に物価安定が割り当てられるかが分かります。ただし、ここでは脇道にそれるので、これ以上の説明は控えることにしたいと思います。)

 もし現在のG7各国にこのティンバーゲンの定理がそのままあてはまるのであれば、外国と経済政策に関する政策協調を行う必要はないということになります。それは今日のように、相互の依存関係が深まっているような状況でもそうです。外国からどのように影響を受けようと、それは自国の政策手段の操作で吸収でき、政策目標は必ず実現できるはずだからです。

【国際経済政策協調が必要とされるケース】

 もしそれにもかかわらず、国際経済政策協調が必要とされるケースがあるとすれば、次の二つが考えられます。

 第1に、N個の政策目標を実現するためにN個の政策手段が確保されているが、政策目標を実現するためにとる必要のある政策手段の値が、本来、政策手段がとれる値域を超えている場合です。

 この例としては、金融政策が物価安定目標を実現するためには、マイナスの名目金利をとる必要があるが、名目金利はマイナスにはなれないという、「非負制約」に直面した場合が挙げられます。こうなると政策手段は一つ失われたのと同じになります。(なお、この非負制約を克服するために、新たに考えられた政策が量的緩和政策やマイナス金利政策であることは言うまでもありません。)

 そこで、政策手段が足りない分を外国の政策手段で補い、政策目標を実現しようというのが国際経済政策協調です。言ってみれば、政策協調によって、外生変数の中の海外変数を政策変数化しようというものです。このためならば、政策協調を行う理由は存在することになります。(もっとも、外国の政策変数をどのようにコントロールすれば国内の政策変数が実現できるかを知ることは極めて困難であることは、容易に想像がつきます。)

 第2に、N個の政策目標に対するN個の政策手段のうち、いくつかが自由度を失っている場合です。

 例えば、財政政策が財政再建のために裁量的な運営ができなくなっている場合がこれにあたります。本当に自由度がないのか、それともわずかではあれ利用することができるのかは、当然、最初に答えなければならない問題です。これがしばしば議論の対象となっている、各国の「フィスカル・スペース」(fiscal space)の問題です。しかし、もし、フィスカル・スペースが全くなく、財政政策が身動き取れないということになれば、政策手段が一つ失われることになります。そうなれば、経済政策の政策協調は必要だということになります。

【G7以外の国々の視点】

 このように考えてくると分かることは、国際政策協調が正当化されるためには、いくつかの条件が必要で、現在、国際政策協調が再び脚光を浴びるようになっているのは、各国の政策手段が様々な限界に直面していることの裏返しだということになります。そのような意味では、G7各国はいずれも何らかの意味で限界に直面しているので、お互いに他国に期待するところが大きく、サミットでの政策協調がかなり困難なものになることは十分に予想されます。

 最後に、忘れてはならないことを一つ。

 サミットはG7の間で行われるわけですが、G以外の国々、特に発展途上国の国々は、先進国以上に政策手段の面で制約に直面している可能性があります。

 そうであれば、G7は困難に直面しているこうした発展途上国を中心とした国々の政策目標の実現も考慮して政策協調を行う必要があります。決して(先進国クラブとしての)G7だけの最善を目指すのではなく、世界経済全体の最善を目指すことが問われているのです。特に日本には、サミットの主催国として、その視点が強く求められているのではないかと思います。