AI主導社会とAKモデル
2017/05/22
【最新の将来推計人口が確認する人口減少】
将来の日本の人口の姿に関する新しい推計結果が、4月に国立社会保障・人口問題研究所から発表されました。その「日本の将来推計人口(平成29年推計)」によりますと、2015年に1億2709.5万人あった人口は、50年後の2065年には8,807.7万人、2015年に比べて30.7%減になると見込まれています。さらに参考推計として示されている推計値によりますと、100年後の2115年の人口は5,055.5万人、2015年の人口の39.8%の水準にまで減少するとされています。前回の平成24年推計に比べ若干の上方改訂にはなっていますが、人口が減少を続けると見込まれていることに変わりはありません。この人口減少ペースは急速で、100年間の平均で毎年0.9%ずつ人口が減少していくようなペースです。仮にこのペースで減少が続くとすると、約1950年後には、日本の人口は2人になってしまうという計算になります。(以上の議論は、出生中位・死亡中位ケースの試算値に基づいています。)
このような人口減少は当然経済成長にもマイナスの影響を及ぼすことになります。もし、このマイナスの影響を打ち消して、さらに今日よりも高い成長を持続させたいのであれば、これまでとられてこなかったような政策の総動員が必要になってきます。なかでも外国人労働者の拡大は不可避のように思われます。人口減少に対応するための政策メニューについては別の機会に論じましたので、ここでは詳細は省略をします。関心のある読者は、2015年10月の本コラム「時間軸から見た人口減少対策」をご覧ください。
【人口減少への対応策としてのイノベーション】
ただ、一つだけここで触れておきたいのは、人口減少のマイナス要因に対する対策として、しばしば大きな期待を寄せられている生産性の上昇、なかでも技術革新(イノベーション)についてです。人口が減っても、一人あたりの生産性が高まれば、経済成長は維持できることから、イノベーションは究極的な解決策とされています。
私も、イノベーションに期待したいのは山々です。しかし、現実にはあまり楽観はできないと思っています。なぜなら、イノベーションを実現する主体である科学者や技術者の数が、人口減少の中にあって、同じく減少せざるを得ないからです。もちろん、一時的には、天才・秀才が現れてきて、偉大な発明をする可能性はあると思います。しかし、長期的にそうしたことが続くとは考えにくいように思います。やはりイノベーションも究極的な解決策にはなり得ないのではないか、というのが私の印象です。
【ロボットやAIへの期待】
実は、かつてこのようなテーマで、大学の理工系の研究者の方々と議論したことがあります。そのとき、多くの方々から反論をいただきました。様々な意見がありましたが、異口同音に表明されていたのは、ロボットやAIに対する絶大な期待でした。ロボットやAIは飛躍的に生産性を上昇させるので、人口減少の影響は恐れるに足らず、という訳です。もしかしたらロボットやAIが人々の労働を代替してしまう可能性もあるかもしれない。しかし、仮に働く人が誰もいなくなってしまったとしても、ロボットやAIに稼がせればいいではないか、という考え方でした。
確かに、急速なイノベーションの進展によって、雇用機会は奪われ、現在ある職種の半分は消えてしまうかもしれないという研究もあります(例えば、Frey and Osborne, The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation)。そうした研究によると、専門性の高い高スキルな職種と、機械に置き換えにくい低スキルな職種は残るが、その中間にある職種は消滅してしまうと予想されています。近年、急速に発達しているAIの影響などを考えると、これまで残ると思われていた職種も不必要なものにしていくかもしれません。人々の働く場所はますますなくなってしまうかもしれないのです。そのとき、人々は何をすることになるのでしょうか、また人々は、生計をどのように立てていくことになるのでしょうか。そんなことを考えさせられました。
他方、ロボットやAIが、持続的に生産性を上昇させられるということには疑問が残りました。確かに、生産性は一時的には飛躍的に上昇すると思います。これまで蓄積されてきた膨大な論文やデーターを人々は使いこなせていなかったのに対して、AIであれば、一瞬にしてそれらを読み込み、分析し、提案をすることができます。経済に残されていた非効率性は、かなりの部分は取り除かれることになると思われます。
しかし、いったん効率性が高まってしまえば、それ以上の生産性上昇要因は引き出せません。さらに言えば、AIを世にもたらしたような画期的なイノベーションは、人間にしかできないのではないでしょうか(AIがAIを作り出せたか?)。そう考えると、ロボットやAIが長期的に持続可能な生産性上昇をもたらすとは考えられないのです。
【AKモデルの再評価】
以上のように考えてくると、ロボットやAIが持続的な生産性上昇をもたらし、人口減少のマイナス要因を相殺できるとはどうしても思えません。人口減少によって日本の経済成長が低迷することは不可避のように思えます。
この問題を考えていたときにひとつ思い浮かんだのが、経済成長論で出てくるAKモデルです。もしかしたら、私のような見方に対する対案がここに示されているのではないかと思ったのです。
AKモデルは内生的成長理論の中でも最も単純なモデルで、Y=AK というものです。コブ=ダグラス型生産関数 Y=AK^α L^(1-α) において、資本分配率にあたる α が1であると仮定したものに相当します。このモデルの特徴は、従来のソロー=スワンモデルのように、外生的に決まる技術進歩率がゼロであれば一人あたり所得の成長が止まってしまうというのとは違って、持続的な経済成長を続けることを示すことにあります。しかも、内生的成長理論の多くがイノベーションの創出をモデル内に取り込もうとしているのに対して、AKモデルはそれをするわけでもありません。にもかかわらず、持続的な成長を続けるのは、資本の限界生産力が逓減するという仮定を排除しているからです。
私にとって、このAKモデルでしっくりこなかったのは、労働の寄与が含まれていない点でした。生産が資本投入だけによって可能になっている。人はどこにいってしまったのか、という疑問です。この疑問に対しては、ここで資本とされているものには、物的資本だけではなく、人的資本も含まれているという解釈(Barro and Sala-i-Martin, Economic Growth)をもって、とりあえずは納得することにしました。
しかし、もしかすると、このモデルは、ロボットやAIが生産の主体になり、人々の役割は生産過程において労働を提供するのではなく、ロボットやAIなどの資本の所有者として存在するような状況を想定しているのかも知れません。その場合、人々は、企業から、ロボットやAIを貸出した見返りとしてレンタル料を取得することで生活をしていることになります。
ここでは、ロボットやAIが新しいイノベーションを起こすことがなくても問題になりません。前述のように、このモデルは、技術進歩がなく、技術水準が一定であったとしても、持続的な成長を続けことができるからです。
【未来社会の設計】
果たして、このような経済社会になっていくのか。そのとき、人々は何をするのか。ロボットやAIが急速な発達を遂げている中、こうした点を考え始める必要があるのではないでしょうか。
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