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齋藤潤の経済バーズアイ

「令和」への宿題:高齢化・人口減少にどう対応していくのか

 

2019/04/15

【高齢化・人口減少と潜在成長率】

いよいよ「令和」の時代が始まります。

「平成」の時代は、浮沈の激しい時代でした。経済的な面からみると、いくつかの特徴を指摘することができますが(詳しくはReflecting on the Heisei-era: Macroeconomic Performance of the Thirty Years(19年4月)を参照してください)、その中でも特に注目されるのは、潜在成長率が大きく低下してしまったという点です。「平成」が始まった1989年には4%を超えていた潜在成長率が次第に低下をしていき、リーマンショック直後には一時的にマイナスにまで低下してしまいました。さすがにこの水準からは立ち直ることができましたが、現在においてもなお、1%程度しかないという状況です(第1図)。

潜在成長率が高いことは、(特に後述するように人口が減少しているときには)一人当たりの所得水準も上昇することを意味し、生活水準の向上に寄与します。加えて、日本の場合には、極めて高い水準の政府債務を抱え、また収支均衡が難しくなってしまっている社会保障制度に依存していることから、社会制度を維持していくためにも、経済成長を引上げることが不可欠となっています。

しかし、それには大きな壁が立ちはだかっています。「高齢化・人口減少」の壁です。「高齢化・人口減少」については、4月12日に発表になった人口推計(2018年10月時点)を見ても確認できます。日本の総人口は2008年をピークに減少基調にあり、2018年10月までの1年間にも26万人余の減少が見られました(第2図)。

このような高齢化・人口減少は、このまま手を打たないでいると、潜在成長率をさらに引き下げていくことになります。一方では、働き手の減少をもたらし、労働力人口の減少をもたらします。他方では、貯蓄率の低下から、資本ストックの蓄積に影響を及ぼします。さらに、科学者・技術者の減少から、技術進歩も停滞する可能性もあります。こうした傾向は、1990年代後半から見られ始めましたが、次第に顕著になってきており、今後も長期にわたって継続するものと見込まれます。この壁を乗り越えることは容易ではありません。しかし、これを乗り越えることなしには、日本経済の持続的な発展の展望が描けないのが現状です。このことこそが、「令和」時代に課せられた最大の宿題ではないかと思います。

それでは、どのようにすればその壁を乗り越えられるのか。その方策として考えられるのは4つです。すなわち、①労働生産性の引上げ、②労働参加率の引上げ、③出生率の引上げ、④外国人労働者の受入れ拡大、の4つです。これらについては様々なことが指摘できますが、これについては以前、このコラムでも触れたことがあるので、詳細はそちらに譲ります(時間軸から見た人口減少対策(15年10月))。以下では、それぞれについて、一つずつ問題提起をしてみたいと思います。

【労働生産性の引上げ】

労働生産性の引上げに寄与する要因としては、資本装備率の引上げと、全要素生産性の引上げが挙げられます。その双方に貢献するものとして鍵を握っていると考えられるのが、対内直接投資の促進です。周知のように日本の対内直接投資のGDP比率は、OECD加盟国の中で最低となっています(第3図)。

対内直接投資は、高齢化に伴って減少してくる国内貯蓄を補う役割を担う海外貯蓄を国内に引き込み、資本装備率の引上げに貢献することになります。また、対内直接投資の結果、国内における外国法人が増加することによって、競争が促進され、経済の効率化を促進するとともに、イノベーションを加速させることにもなります。いずれも全要素生産性の引上げをもたらすことになります。

対内直接投資については、諸外国に比べて日本で特に厳しい規制を課しているわけではありません。にもかかわらず、それが限定的な理由としては、日本における雇用システムのあり方など、経済システムにかかわる点や、行政手続きが煩雑であり、電子政府化も遅れているといった政府規制のあり方などが挙げられます。これらに早急に取り組む必要があります。

【労働参加率の引上げ】

高齢化も人口減少も、労働力人口を減少させる重要な要因です。ここで鍵を握るのは女性の活躍です。いかに20歳~40歳層の女性の労働参加率を引上げ、日本に特有のM字カーブを解消するかが依然問われています。確かに、近年は、女性の労働参加率は上昇してきており、むしろそのために、足元では労働力人口は増加しているほどです。そのため、第1図にあるように、潜在成長率への労働投入の寄与は足元でプラスになっているほどです。しかし、女性の労働参加率をさらに引上げていくためには、一層の政策努力が求められています。

女性にとっての大きな負担は、出産と子育てです。今は、その負担が女性に重くのしかかっています。それは例えば、育児休暇の取得状況にも表れています。女性の取得率が80%超で推移しているのに対して、男性のそれは、高まってきたと言え、依然として5%程度です(第4図)。これでは、女性が仕事を継続することは難しく、また仮に継続するにしても、男性の企業への貢献に比べると大きく見劣りをすることになります。これが女性の労働参加意欲を削いだり、あるいは企業の暗黙のうちの女性採用意欲を減退させたり(統計的差別)することになります。

このような状況を打開するのは容易ではありません。そのためには、例えば、男性の育休取得を義務付け、男性と女性とをイコールフッティングの状況に置くようにするといった、大胆な改革をする必要があります。

【出生率の引上げ】

日本における女性の労働参加率の引上げの難しさは、それと並行して出生率を引上げなければならないことにあります。女性が家庭と仕事を両立させることができるようにすることが重要です。それは難しいことのように思えますが、実は欧州諸国のなかにはそれを実現できている国々が多くあります。日本も最近までは、緩やかながらそうした方向に進んでいました。しかし、2015年から2017年にかけては、労働参加率が上昇するなかで、合計特殊出生率が低下しているという事実があります(第5図)。

保育所の整備が進んでいても、待機児童数は未だ解消されず、人手不足の下で企業のワークライフ・バランスの取組は進んではいるものの、長時間労働が解消されないなど、課題は依然として大きなものがあります。英国が導入した「フレキシブル・ワーキング法」(2003年)のように、雇用者に多様な働き方を求める権利を与え、企業はそれを認めるか、認めないならその理由を説明することを義務付けるなど、働き方のもう一歩踏み込んだ改革を実行することが課題になっています。

【外国人労働者の受入れ拡大】

不足する労働力人口を補い、またイノベーションに必要な多様性(ダイバーシティー)をもたらすものとして、外国人労働者の受入れ拡大は重要です。その意味では、本年4月から、高度人材だけではなく、非熟練の外国人労働者を受け入れることになったことは注目されます。

外国人労働者を巡っては、多くの国々が受入れ拡大を図ろうとしています。また、外国人労働者をこれまで送り出してきたアジアの国々も、これから高齢化を迎え、人口減少に直面することが予想されています。そうしたときに、日本が外国人労働者にとって魅力的な国であり続けられるかは、必ずしも確かではありません。そうした意味では、外国人労働者が日本に来るインセンティブを良く理解することが大切のように思います。

例えば、外国人労働者の受入れを拡大すると、東京に集中してしまうのではないかという懸念が聞かれます。しかし、最近の動向を見ると、東京への集中度は低下しています(第6図)。

また、労働者に限らず、外国人全体の動向を見ると、日本人の東京を始めとする大都市圏への流入の動きとは逆に、大都市圏からは流出する動きが見られています(第7図)。こうしたことの背景を理解しておくことは、外国人労働者の受入れ拡大を進めていく場合には重要なことではないかと思います。

【「令和」に課せられた宿題】

以上、潜在成長率の引上げに立ちはだかる高齢化・人口減少という壁をどう乗り越えるべきかについて考えてきました。そのために重要だと思われる4つの方策に則して考えてきましたが、いずれも容易なことではありません。だからこそ先送りされてきた課題だとも言えます。

しかも、難しいのは、さしあたっては先送りの弊害がすぐには目に見えないという点です。その影響は長期にわたって徐々に表れてくるため、気が付いたときには問題はさらに大きくなってしまっているということが十分に考えられます。したがって、この問題に取り組むには、広くて長期にわたる視野と、客観的な状況分析、それに冷静で大胆な判断が必要とされます。

「令和」の時代は、そうしたことが日本に果たしてできるのかが問われる時代になるように思います。


※2018年1月以前のバックナンバーはこちら(旧サイト)をご覧ください。