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齋藤潤の経済バーズアイ

アメリカでも人口は減少するのか

 

2019/11/18

【人口増加率が低下しているアメリカ】

 アメリカは先進国の中でも人口が増加していることで有名です。このため、今でもアメリカは中国やインドに次いで、世界で3番目に人口の多い国としての地位を維持しています。

 しかし、近年、アメリカの人口増加率は徐々に低下してきています。図表1に見られるように2018年(2018年7月時点)の人口増加率は0.6%にとどまり、1937年以来の低さとなりました。

 このような人口増加率の低下の背景には、三つの要因があったと考えられます。

【合計特殊出生率の低下】

 第1の要因は、アメリカにおける合計特殊出生率の低下です。

 図表2にあるように、アメリカの合計特殊出生率は戦後低下を続け、1976年には1.7380を記録しました。その後、わずかに回復をしましたが、2007年に直近のピークである2.1200を記録した後、再び低下傾向を辿り、2018年には1.7655となりました。

 アメリカの合計特殊出生率を人種別に見ると、かなり差があることが分かります。図表3にあるように、Hispanic やNative Hawaiian or Other Pacific Islander では2を超えており、比較的高いのに対して、White やAsianでは1.6前後と低くなっています。これは、長期的に、アメリカの人種別構成の変化をもたらすものと考えられます。

 アメリカの合計特殊出生率は、2006年と2007年を除くと、1971年以降、人口置換水準2.1を下回り続けています。したがって、これだけをとれば、アメリカの人口がいずれ減少を続けてもおかしくはありません。

 ただ、実際に減少するかどうか、あるいはするとしたらいつからかという点は、死亡率や移民の動向にも関わってきます。この二つが、これから述べる第2、第3の要因に対応しています。

【死亡率の上昇】

 アメリカの人口増加率低下の背景にある第2の要因は、アメリカの死亡率が増加傾向に転じていることです。

 アメリカは高齢化が進んでいないので、死亡率は低下傾向にありました。このことは、これまで人口の増加に寄与してきました。しかし、図表4で見られるように、2010年を底に、最近は死亡率の上昇が見られます。

 これに対応しているのが、アメリカにおける平均寿命の低下傾向です。日本のように、多くの先進国では、平均寿命の上昇が見られます。しかし、図表5が示すように、アメリカでは、2014年以降、3年連続して低下しています。このような継続的な低下は、第1次世界大戦の時期を含む1915年~1918年以来のことです。

 平均寿命の低下の理由としては、薬物の過剰摂取(特にOpioidsの)や自殺の増加などが挙げられています。これらの要因は、アメリカにおける労働参加率の低下の理由として挙げられているものとも重なり、アメリカにおいて広がりを見せている社会問題の一つとして注意しておく必要があります。

【移民の純流入の減少】

 アメリカの人口増加率低下の背景にある第3の要因は、移民の純流入の減少です。

 アメリカは、「人種のるつぼ」と言われてきたように、移民によって成り立っているとさえ言って良いような国です。

 しかし、このところ、移民の流入が低迷しています。図表6が示しているように、合法的な移民流入は、2006年をピークに減少傾向に転じ、2013年以降しばらくは増加したものの、2017年にはまた低下をしました。そして、Brookings InstitutionのWilliam Frey氏の推計によると、2018年には、移民流入(非合法を含む)が70%減少したとのことです。このような大幅な下落は戦前の大恐慌以来のことです。この背景には、トランプ政権の移民政策が影響しているものと考えられます。

【アメリカにおける人口減少のインプリケーション】

 以上のように、アメリカの近年の人口増加率の低下の背景には、①合計特殊出生率が2を下回る水準にまで低下をしていること、②死亡率が上昇していること、③移民純流入数も減少してきていること、などがあります。もしこれが続けば、いずれアメリカの人口は減少に転じることが考えられます。

 アメリカ自身の人口予測や国際連合の人口予測は、アメリカの人口は増加を続けるものとしています。しかし、例えば、前者の場合、移民の出し手の国の人口予測や米国移民率など、供給側の要因に基づいて予測されています(U.S. Census Bureau, Methodology, Assumptions, and Inputs for the 2017National Population Projections, September 2018)。しかし、最近の移民政策を見ると、需要側の要因も重要で、これがむしろ移民抑制的に機能している可能性があると考えられます。この点を考慮しないと、アメリカの人口予測は非常に楽観的なものになってしまいます。

 人口は地政学上、大きな影響力を持っています。その人口が本当に減少することになるとすれば、経済的にだけではなく、政治的にも大きな影響をもたらすことになるかもしれないことには留意をしておく必要があると思います。


※2014年12月以前のバックナンバーはこちら(旧サイト)をご覧ください。