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齋藤潤の経済バーズアイ (第94回)

国際標準から大きく後れをとる日本:東京2020に期待されるレガシーとは

 

2020/01/20

【国際標準に後れをとる日本】

 かつて日本は国際標準を牽引していました。工業製品の品質や安全性の面でそうでしたし、エネルギー利用効率の面でもそうでした。日本はそれを誇りに思い、世界各国は、それを見習おうと努力をしてきました。

 しかし、日本の最近の状況をみると、国際標準となっているとは言えないような状況になっています。否、より正確には、国際標準から大きな後れをとってしまっているように思えます。

【温室効果ガス排出抑制の後れ】

 その一例が、温暖化ガスの排出抑制における大きな後れです。第1図が示すように、1990年時点では、日本がGDP一単位を生産するために排出する量は比較的少量で、OECD諸国のなかでは少ない方から9番目でした。しかし、その後、各国が排出抑制に積極的に取り組む一方、日本における進展は限定的でした。そのため、2015年には20番目にまで順位を落としています。

 実際、エネルギー源としての石炭への依存はむしろ1995年から2014年の間に増加しています。そのことがあって、昨年の12月にマドリッドで開催されたCOP25では、民間のNGOから「化石賞」を贈られることにさえなりました。

 地球温暖化ガスの例は、かつてはそうではなかったが、最近になって国際標準からの後れが目立つようになった例ですが、実は、昔から国際標準に後れをとっており、今に至っても改善が見られない分野があります。それは、ダイバーシティ(人材多様化)の分野です。

【女性活躍の後れ】

 まず、女性の活躍の後れです。World Economic Forum(WEF)が昨年の12月に発表したジェンダー・ギャップ指数(Global Gender Gap Index)の2020年版によると、日本は、153カ国中、前年から11位ランクを下げて、121位になったとのことです。これは男女格差の改善が大幅に後れていることを示しています。最も大きな後れは政治面にみられており(141位)、女性閣僚や女性議員の少なさが際立っています。しかし、経済面や教育面でも、とても男女平等といえるような状況にはありません(経済面115位、教育91位)。

 例えば、女性の労働参加率は、男性のそれに比べて、差が大きく、縮小のペースは他に比べて極めて遅いものにとどまっています。第2図にあるように、女性の労働参加率の男性のそれに対する比率は、1990年には64%でしたが、2018年でも74%と、小幅な改善しか見られていません。その間、1990年時点で比率の低かった国々はほとんどが大幅な改善を示したので、OECDの中で日本は、男女の格差が大きい国の一つになっています(図中で示した国の中では14位から21位に後退)。

【外国人活躍の後れ】

 ダイバーシティの後れは、移民の面でも見られます。ここで移民とは、長期に滞在している外国生まれの人のことを言います(必ずしも日本国籍を取得したり、永住したりすることを前提にしているわけではありません)。

 そういう意味での移民に対して日本は、厳しい姿勢で臨んできました。ようやく最近になって変化が見られるようになっています。例えば2012年には高度人材に対してポイント制を導入し、在留期間や永住許可要件の面で優遇するようになりました。また2019年からは、人手不足の業種において、一定の専門性や技能を持った人材を「特定技能」という在留資格で受け入れることができるようになりました。しかし、単純労働者の受入は基本的にはしていません。

 こうしたことから、第3図でわかるように、全人口に占める移民の比率は、1990年時点で低く、それ以降も上昇は見られていません。その結果、比率の高い順でみると(すなわち、男女平等が進んでいる順で見ると)、OECD加盟36カ国中、32位から34位に低下しています。

【障害者活躍の後れ】

 ダイバーシティの後れとして最後に指摘しておきたいのは、障害者の雇用です。障害者の雇用は、近年、促進されてきました。事業者ごとに法定雇用率が設けられ、例えば、民間企業の場合には2.2%、国・地方公共団体等であれば2.5%という目標が設定されています。しかし、この目標自体は、それほど意欲的なものではありません。障害者が全人口に占める割合が7.6%であるということを考えると低いものと言えます。

 にもかかわらず、現実には、この目標さえ達成されていません。昨年の12月に公表された厚生労働省の障害者雇用状況(2019年6月1日時点)の集計結果によると、第4図にあるように、民間企業の実雇用率は2.11%に止まっており、目標を達成している企業数は全企業数の48%でしかありません。国・地方公共団体等の実雇用比率も2.31%でしかありません。

【社会的なダンピングになっていないか】

 これまで、日本が国際標準から後れをとっている分野について見てきました。早く国際標準に追いつき、できれば国際標準を牽引するような位置に復帰したいものです。温室効果ガスを削減し、再生可能エネルギーに置き換えていくこと、あるいはダイバーシティを促進していくことは、持続可能で公平な経済発展にとって重要です。また、そのことは、長期的な経済成長にも寄与するものであると考えられます。

 しかし、これに対しては、様々な反論が考えられます。特に、短期的には膨大なコストを負担しなければならなくなることへの抵抗は強いと思われます。だからこそ、これまで日本においてはこれらの分野での進展が見られず、結果的に国際標準に大きく後れをとることになったと思われます。

 しかし、世界の多くの国々は、そうした負担をしてまで、温暖化ガスを削減し、ダイバーシティを進め、国際標準となる地位に立ってきています。これに対して、こうした負担をしないということは、社会的なダンピング(低価格競争)をしていることになっているように思われます。これでは、国際社会で名誉ある地位を築くことはできません。

【東京2020オリンピック・パラリンピックに期待されるレガシー】

 このように考えてくると、一刻も早く、これまでの政策の方向性を転換し、各分野での国際標準に日本を適合させていく必要があります。

 その意味では、東京2020オリンピック・パラリンピック大会は、貴重な機会を提供してくれるのではないでしょうか。この機会に、外国人、女性、障害者の目を見張る活躍を間近で見、日本におけるダイバーシティの現状を顧みることが重要です。また、この大会の運営や調達を通して、東京2020大会が環境面に与える影響を最小化することを考えることも必要です。

 このような取り組みを通して日本が国際標準に向けて飛躍するということこそが、東京2020オリンピック・パラリンピック大会のレガシー(将来に引き継ぐべき遺産)であるべきではないかと思います。