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齋藤潤の経済バーズアイ

日本におけるマッチング機能の低下

 

2020/02/20

【マッチングの重要性】

 進学、就職、結婚に関する決断は、個人が一生涯に行う様々な決断の中でも、特に重要な三つではないでしょうか。その三つのそれぞれにおいて、個人は、複数の選択肢の中から一つを選ぶという難しい選択を迫られます。しかし、本当の難しさは、選択した相手(学校、企業、個人)も同じく選択を迫られていて、決断が成功裏に終了するためには、双方の選択が一致する必要があるということにあります。この「マッチング」が、円滑で安定的なものであるかどうかは、個人にとって重要であるばかりでなく、社会全体にとっても重要なことです。もしマッチングがうまく機能しないと、そもそもマッチング自体が行われなかったり、行われても、それが早々に解消されてしまったりする可能性があるからです。そうなれば、個人が犠牲にする費用も、時間も、精神的苦痛も、多大なものになります。

 しかし、実は、このマッチングが日本ではうまく機能していないのではないかということを思わせるデータがいくつかあるのです。

【中途退学率の上昇】

 まず進学について見てみましょう。高校生の大学・短大進学率は、2019年3月卒業生について見ると、54.8%にまで上昇しています。高校生の過半が大学・短大に進学するようになっているわけです。しかし、同時に、大学生の中途退学率が上昇しつつあるのです。少し古いデータになりますが、図表1によると、2012年度に大学・短大・高専から中途退学した学生は、全学生の2.65%に達しています。これはその5年前に比べて0.24%ポイントの上昇です。

 中途退学の理由を聞いた調査の結果によると、2012年度における中途退学者の約半数(48.4%)は、大学が自分と合わなかったことを理由に挙げています(残りは経済的理由など)。内訳をみると、転学(全中途退学者の15.4%)、学業不振(同14.5%)、就職(同13.4%)、学校生活不適応(同4.4%)、海外留学(同0.7%)などとなっています。こうした学生にとって、大学・短大入学時におけるマッチングは失敗だったということになります。

【離職率の上昇】

 同様な傾向は就職の面でも見られます。

 図表2が示しているように、新規学卒の就職率は2010年代初めから上昇しており、2018年3月卒の場合は98.0%、2019年3月卒の場合でも97.6%となっています。しかし、並行して、大卒の離職率も上昇しています。最近で最も低かったのは2009年3月卒の28.8%でした。その後は上昇し、ここのところ32%前後で推移しています。2016年3月卒の大学生の3年以内離職率はちょうど32.0%でした。離職者からすると、就職時の企業とのマッチングがうまくいかなかったということになります。

【離婚率の上昇】

 結婚に関するマッチングにおいても機能低下が見られます。

 第1に、晩婚化が進んでいます。年齢別で見ると、それぞれにおいて婚姻率が低下しており、生涯未婚の人も増加しています。図表3は、30~34歳層の未婚率を見たものですが、50年前に比べると、約4倍に増えていることが分かります。

 晩婚化は、過去に比べて、結婚に関するマッチングにより時間がかかっていることを示していますが、同時に、マッチングに至った場合でも、それが必ずしも安定したものにはなっていないようです。図表4が示しているように、離婚率(ここでは、有配偶者に対する離別者数の割合と定義)が徐々に上昇しています。

【ゲール・シャプレーのアルゴリズムから分かること】

 以上、日本において行われている様々なマッチングがうまく機能していないことを窺わせるデータについて見てきました。そのために、マッチングがなかなか行われなかったり、せっかく行われても不安定なマッチングしかできていなかったりしているようです。

 それでは、そうしたマッチングの機能低下の背景には何があるのでしょうか。

 安定的なマッチングが行われるための条件は、ゲール・シャプレーのアルゴリズムによって示されています。仮に、今、複数の主体(個人、学校、企業等からなる)を構成員とする二つのグループAとBが存在し、この二つのグループの構成員間でマッチングを行う場合を考えてみましょう。一つのグループの構成員のそれぞれは、もう一つのグループの構成員のそれぞれに対して、明確な選好順位があるとすると、次のような手順を踏めば、安定的なマッチングに到達することが分かっています。

 グループAの構成員の一人a が、選好順位1番のグループBのメンバーb にマッチングの申し込みをするとします。b は、それまでに申し込みがあれば、それと比較し、選好順位の高い方を残し、それ以外は却下します。a は、却下された場合には、次に選好順位2番目のBの構成員b’ にマッチングを申し込みます。このb’も、b と同様の基準で判断をします。このようなプロセスは、a がもうマッチングの申込みをする必要がなくなるまで続けます。a の申し込みが終了したら、グループAの次の構成員a’ が、aと同じようにBの構成員に申し込みをしていきます。このようなプロセスが、Aの構成員が一巡するまで行われることになります。この一巡したところで得られた結果が、安定的なマッチングであることをゲールとシャプレーが示しました。

 ゲール・シャプレーのアルゴリズムに比べると、進学、就職、結婚に際して行われている日本でのマッチングはかなり異なることが分かります。

 まず進学の場合、そもそも入学試験があるので、それによって学生の選択肢は、選好順位が付いているものの一部に限定されています。また、就職の場合には、経団連加盟企業は就活ルールを遵守しなければならないので、それによって企業側のマッチングが制約されています。そして、結婚の場合、選好順位を明確に示すことに対する心理的な抵抗感が根強くあります。こうしたことの結果、マッチングが行われたとしても、それが必ずしも安定的なものになるという保証はないのです。

 加えて、そもそも各主体が、相手グループの全ての構成員に対して明確な選好順位を持っていなければならないという条件を満たすことが難しいという面もあります。

 第1に、明確な選好順位を持てるほど、相手に関する情報を持っていないという問題があります。その結果、マッチングが行われた後になって、相手の実態が思っていたのとは違っていたということが判明するということはしばしば起こります。それは、進学後でも、就職後でも、結婚後でも起こり得ます。個人が必要な情報を集める努力を十分にしていないこと、また相手側からの情報提供が十分でないことも手つだって、個人の選択が親の言うことや世間の常識に影響されてしまうことがしばしば見受けられます。

 第2に、将来、どのような相手に巡り合えるかについての不確実性があります。結婚の場合が典型的ですが、進学率の高まり、就職率の高まり、そのための地理的移動(引っ越し)などによって、将来巡り合う人の範囲が広がる可能性が高くなっています。そうであれば、相手の範囲を確定し、それぞれについて明確な選好順位をもつことは極めて困難なことになります。これは、結婚における安定的なマッチングを妨げる要因になります。

【マッチング機能の改善が必要】

 マッチング機能が低下している状況の下では、中途退学、離職、離婚といった行動は、安定的なマッチングを探っていくために必要なプロセスなのかもしれません。その意味では、言わば次善の策(セカンド・ベスト)です。しかし、そのために、金銭的、時間的、精神的な意味で、膨大なコストを負担することになることを考えれば、それよりは、最初のマッチングの機能を高めることが重要であるということは言うまでもありません。入学試験のあり方や就活のあり方を見直すなど、低下してしまっているマッチング機能を改善することこそが、いま求められていることではないかと思います。