一覧へ戻る
齋藤潤の経済バーズアイ (第103回)

コロナが家計消費に与えた影響

 

2020/11/02

【特別定額給付金の給付にもかかわらず減少した家計消費】

 内閣府の経済社会総合研究所は、10月16日に、本年4~6月期の家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報を発表しました。それによると、4~6月期の名目家計可処分所得は大幅な増加となりました。季節調整系列でみると、前期比9.7%の増加です。これは、本年度第1次補正予算に含まれていた一人当たり10万円が支給された特別定額給付金の払込の影響であると考えられます。

 しかし、このような家計可処分所得の増加にもかかわらず、家計消費はそれに反応することはありませんでした。同じく季節調整系列でみると、前期比8.5%の減少となっています。これは2008年基準のGDP統計が整備されている1994年以降で見ると、過去に見られなかったような大幅な下落です。この結果、家計貯蓄は前期比22.5%の増加となり、家計貯蓄率も前期の7.8%から23.1%へと大幅な上昇となりました。

 そもそも特別定額給付金は一回限りの給付であるので、恒常所得仮説で言う変動所得として家計消費の大きな増加をもたらすものとは考えられませんでした。しかし、家計消費が増加するどころか減少を示したということは、4月上旬から5月下旬にかけて発出された非常事態宣言をはじめ、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)に対してとられた様々な対応が、供給面と需要面の両面から家計消費を制約したことを示しています。

【特徴的なサービスの急減】

 家計消費の内訳を見ると、4~6月における減少の特徴が浮かび上がってきます。四半期別GDP速報で形態別消費の動向を見ると、この期における家計消費の減少に際立って大きな影響を与えているのが、サービスの減少です(第2図)。季節調整系列の前期比で12.5%の大幅な減少となっています。これは、1994年以降では見たことのない現象です。リーマンショック直後でさえ、耐久財や非耐久財では今回を超える減少がみられましたが、サービスの減少は限定的でした。

【サービスの全般的減少と一部財の増加】

 それでは、どのようなサービスが減少を示したのでしょうか。その詳細を見るために、総務省統計局の家計調査(二人以上世帯の家計収支)の調査結果を見てみましょう。

 4月と6月の間に大幅な減少を示した品目としては、外食(特に一般外食)、保険医療サービス、交通、授業料等、教養娯楽サービス(特に宿泊料、パック旅行費、月謝類) 、交際費が挙げられます(第3図)。これらは、非常事態宣言等の下で、こうしたサービスを提供してきた施設が閉鎖されたり、こうしたサービスを購入してきた消費者が外出の自粛をしたりしたためであると考えられます。

 なお、こうした外出の自粛は、外出のために必要であった洋服や靴に対する需要も減少させたはずです。実際、衣類や履物も4月から6月の間に減少を見せています。

 同時に、家計調査を見ると、この時期に消費が増加をした品目があることも分かります(第4図)。例えば、食料(外食以外)、家庭用耐久財、保健医療用品・器具、教科書、学習参考教材、教養娯楽用品などがそうです。これらは、自宅に巣ごもりした際に必要となった食料や仕事・学習関係用品や、娯楽用品が購入されたことを示しています。そのため、サービスの減少の一部が相殺されたことにもなったようです。例えば、食料に対する支出額は、外食の減少と、外食以外の食料の増加を合わせると、大きな変化を示してはいません。

【新しいビジネスチャンスの識別が重要】

 非常事態宣言が解除され、その後「Go To トラベル」キャンペーンが開始されたのに伴い、消費には回復が見られています。しかし、まだ水準としては低いものに止まっています。また、回復の状況は品目によっても異なります。回復が顕著な品目がある一方で、回復が芳しくない品目もあります。このような違いは、コロナとの共存を図ろうとする過程で始まった消費の構造変化を反映している可能性があります。

 経済が再活性化するためには、このような構造変化の中から、需要が減退する分野とこれから需要が伸びていく分野を見分け、後者に資源を集中させていく必要があります。それは大きなリスクが潜む選択ではあります。しかし、活力のある企業家には大きなビジネスチャンスを提供するものでもあると思います。