コロナは人口の地域間移動にどのような影響を及ぼしているか
2020/12/01
【減少を続ける日本の総人口】
日本の総人口(日本人と外国人の合計)は2008年をピークに減少を続けています。最新の推計値によると、2020年11月1日時点の総人口は1億2577万人、前年同月比0.31%の減少となっています。その主因は、合計特殊出生率が依然として1.4%前後で推移しており、人口の自然減(出生数を死亡者数が上回っていること)が続いていることにあります。
しかし、近年は、海外からの入国者が増加していることから社会増(入国者数が出国者数を上回っていること)が見られ、総人口の減少をある程度緩和してもいます。社会増は2013年以降見られ、それによって例えば2019年における自然減による人口減少の約4割を相殺してきているのです。こうした傾向は、いうまでもなく、近年における外国人労働者の急増によるところが大きいものと考えられます。
【コロナの下で入国者数も出国者数も急減】
こうした傾向は、コロナの影響で大きく変わってきています。第1図が示しているように、コロナの感染を恐れて外国旅行が見合わされたり政府による入国制限が実施されたりしたことなどが重なって、4月から日本への入国者数も出国者数もともに減少しています。
【かつて若年層は首都圏に転入しそのまま居住し続けていた】
日本全体としての社会増減は外国からの入国者数と出国者数の差によって決まってきますが、地域ごとの社会増減となると、これに地域間の転入者数と転出者数の差が加わってきます。実は、コロナ下では、この地域間の転出入でも大きな変化がみられているのです。
2019年までは、東京を中心とする首都圏に向けて、それ以外の地域から転入が続くという傾向がみられてきました。例えば2019年10月時点でみると、第2図のような状況がみられました。
このような傾向は、首都圏が働く場としても、学ぶ場としても、さらには楽しむ場としても大きな魅力があったことを反映しています。第3図にみられるように、転入超過が特に顕著だったのは20歳代の若年層であり、それ以降の年齢層では、定年前後の年齢層を除くと、転入と転出とがほぼバランスしている状況が続いていました。
【コロナ下で30歳代以降が転出傾向にある】
コロナ下で、こうした傾向に大きな変化がみられています。例えば2020年10月の状況を示している第4図を見ると、東京からの転出が顕著になっていることが分かります。東京以外の首都圏では全体として転入超過数の増加がみられることから、東京からの転出者の行き先はこうした地域であることがうかがわれます。
第5図で東京からの転出入の動向を年齢階層別にみてみると、50歳代以降だけでなく30歳代や40歳代層でも大幅な転出超過になっていることが分かります。この背景には、テレワークの拡大などによって働き方が変化し、通勤の必要性も低下してきたので、より大きな居住空間とより豊かな居住環境を求めて東京からの転出が増加したことがあると考えられます。
ここで転出者が日本人であるか外国人であるかを見ておく必要があります。なぜかというと外国人は以前から東京からの転出傾向を示していたからです。もしかしたら、日本人で変化はなく、外国人の転出ペースが増加しただけかもしれないのです。しかし、第6図を見ると、やはり日本人が転入超過から転出超過に変化していることが確認できます。
【コロナは出生率にも影響を及ぼしているか】
以上のように、コロナは日本の地域間の人の移動に大きな変化をもたらしていることが分かりました。最後に、コロナが出生率にも影響を及ぼしている可能性があることも指摘しておきましょう。
例えば、第7図で厚生労働省が発表した妊娠の届出数をみると、2020年5月以降の妊娠数は大きく減少しています。
妊娠の届出数の減少は、もしかしたら非常事態宣言の発出の影響で妊娠はしたが報告だけを先送りしただけかもしれません。そうであれば、これが将来における出産数の減少を示していることにはなりません。しかし、もしこれが先行き不透明な中で、実際に出産を見送ったことを示しているとすると、近い将来、出生数が実際に減少することになります。
コロナの人口への影響については、地域間の転出入だけでなく、出生率にも注意をして見ていく必要があります。
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