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齋藤潤の経済バーズアイ

GDPとGNIの乖離は何を意味するのか:コロナ下の交易条件悪化

 

2021/06/01

【乖離を示す実質GDPと実質GNIの成長率】

 5月18日に発表になったGDP統計速報によると、2021年1~3月期の実質GDP成長率はマイナス1.3%となりました。2020年4~6月期にマイナス8.1%を記録した後、7~9月期、10~12月期とプラス成長を続けていましたが、一転3四半期ぶりのマイナス成長となったわけです。これは、米国が、同じく2020年4~6月期に大きなマイナス成長を記録した後は、2021年1~3月期も含めて順調なプラス成長で推移していることに比べると、大きな違いです。ワクチン接種などによるコロナの克服が遅れ、今年に入ってからも二度にわたって緊急事態宣言を発出しなければならないという日本の困難な状況を反映していると思われます。

 ところで、実質GDP成長率と同時に発表になった実質GNI成長率とみると、大きな特徴があることに気が付きます。両者に大きな乖離があるのです。2021年1~3月期の実質GDP成長率が前述のマイナス1.3%であったのに対して、同四半期の実質GNI成長率はマイナス2.0%となっているのです。両者の乖離がマイナス0.7%ポイントと大幅なマイナスになるのは、リーマンショック直前に2008年4~6月期においてマイナス1.1%ポイントを記録して以来のことです。

 このような乖離は何を意味しているのでしょうか。以下、この背景について探っていきたいと思います。

【回復傾向を示す世界経済】

 前述の米国の実質GDP成長率がプラスを続けていることが象徴的に示しているように、地域によって濃淡はあるものの、世界経済全体としては回復軌道にあります。例えば、IMFの最新の World Economic Outlook(2021年4月発表)によると、世界の実質GDPは2020年にマイナス3.3%を記録した後、2021年に6.0%、2022年には4.4%のプラス成長を遂げるとの見通しとなっています。IMFが2020年10月に発表した予測と比較すると、2021年と2022年の実質GDP成長率は、それぞれ0.8%ポイント、0.2%ポイントの上方修正となっています。

 特に米国は2021年に6.4%、2022年に3.5%の堅調な成長を遂げるものと見込まれています。実際、2021年1~3月期において実質GDP成長率が6.1%成長を記録し、消費者物価上昇率も同4月に予想を上回る4.2%の上昇となったことから、米国連銀の予想より早いテーパリングの開始という観測を生み、長期金利の上昇と株価の下落を招いたことは記憶に新しいところです。

【上昇を示す一次産品価格】

 世界経済の順調な回復に対する期待は一次産品価格の上昇も招いています。全体としてコロナ以前を上回る勢いとなっていますが、特に顕著なのは金属価格です。第1図が示しているように、2021年4月時点で、コロナ以前のピークを36%も上回る水準となっています。

【並行するドル高円安】

 加えて、為替市場を見ると、2021年初頭から米ドルは円に対して強含んでいます。第2図が示しているように、米ドルは、1月平均の1ドル103.7円から、4月には109.1円という水準まで増価をしています。

【悪化する交易条件】

 一次産品価格の高騰とドル高・円安という展開は、日本の輸入物価の上昇をもたらしています。第3図は日銀の輸入物価指数の動きを示していますが、同指数は2021年初頭より急激な上昇を示しています。これに対して、輸出物価は、上昇はしているものの、相対的に緩やかなものにとどまっています。そのため、交易条件は、この間、悪化を続けています。

 実は、冒頭に指摘した実質GDP成長率と実質GNI成長率の乖離も、この交易条件の悪化に起因しています。実質GDPと実質GNIの差は、交易条件を表す交易利得(損失)と海外からの所得の純受取の実質値から成り立っていますが、2021年1~3月期の差はもっぱら、この交易条件の変化によるものとなっていることは、第4図が示している通りです。

 通常、世界的な危機が起きた時には、世界経済が悪化し、一次産品等の価格が下落するので、交易条件は改善を示し、実質GNIの下支えをします。それはリーマンショック時や、昨年の4~6月期の下落時が示している通りです。そして、その後、日本経済が世界経済と同調する形で回復をしてくると、一次産品等の価格が上昇をはじめ、実質GNIの回復を一部相殺することになります。そうした関係は、リーマンショック後の2009年~2020年の回復過程において見られています。

 しかし、今回は、日本経済の回復が世界経済の回復に比べて遅れているために、日本経済の回復が本格化する以前に交易条件が悪化しているのです。

【マイナスが続くGDPギャップと下落をする消費者物価】

 このような交易条件の悪化は、ただでさえ脆弱な日本経済の回復過程をさらに遅らせる可能性があります。なぜなら、2020年4~6月期のマイナス成長の影響は大きく、その後回復を見せたものの、2021年1~3月期に再びマイナス成長になったために、これまで縮小傾向を示していたGDPギャップのマイナス幅が再び拡大したと考えられるからです。第5図にあるように、2021年1~3月期のGDPギャップはマイナス5%程度になっているものと見込まれます。

 このようなGDPギャップのマイナス幅は、物価には下落圧力を及ぼしていきます。消費者物価指数(消費税調整済)の前年同月比を見ると、2020年に入ってマイナス基調に転じており、年初にかけて持ち直したものの、再びマイナスに転じており、今後、デフレが再び加速をする可能性があります。

【圧縮される企業収益】

 デフレの加速は、これまで消費者物価上昇率で2%を達成することを目標に推進されてきた量的・質的金融緩和が目標を達成することをさらに困難にするだけではありません。輸入物価が上昇しているにもかかわらず、国内物価が下落をするということは、輸入コストの転嫁を困難にし、企業の利益を圧縮することを意味します。

 こうした状況は、既にGDPデフレーターの動向に表れています。GDPデフレーターはホームメードインフレの指標と言われることがありますが、それは、GDPデフレーターの変化率が(名目GDPを実質GDPで除することで求められることでもわかるように)生産数量1単位当たりの名目付加価値額の変化を表していると考えられるからです。そうしたものとして最近のGDPデフレーターの動向を見ると、第7図が示しているように、GDPデフレーターは2020年10~12月期から前期比マイナスとなっており、2021年1~3月期もそうした状況が続いています。特に2021年1~3月期には単位労働コストが上昇していることも考慮すると、企業部門の収益は大幅に圧縮されていると考えられます。

【求められるワクチン接種の拡大】

 以上見てきたように、世界経済の回復から取り残されつつある日本経済にとって、実質GDPと実質GNIの乖離が示すような交易条件の悪化は、日本経済の回復にとって大きな足かせになる可能性があります。これが日本経済の回復をさらに困難なものにすることがないようにするためにも、経済活動の活性化の前提条件となるワクチン接種の拡大と、それによるコロナの早期終息が求められます。