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齋藤潤の経済バーズアイ

日本は「小さな政府」か「大きな政府」か

 

2021/10/01

 アメリカは、市場メカニズムの機能に経済を委ねることが最も望ましく、政府は経済に介入すべきではないという自由放任主義的な考え方を基本としていることから、「小さな政府」の代表格であると考えられています。それに対してスウェーデンは、経済が引き起こす様々な社会問題に対応するためには、福祉国家として政府の介入が必要であると考えていることから、「大きな政府」であると言われています。

 それでは、日本はアメリカに近いのでしょうか、スウェーデンに近いのでしょうか。言い換えれば、「小さな政府」なのでしょうか、それとも「大きな政府」なのでしょうか。

【政府支出の規模からすると日本は「小さな政府」であるように見える】

 この問題に答えるために、まず政府支出の規模について比べてみましょう。「小さい」「大きい」を論じるのに、政府支出の大小を比べるというのが当然のように思われるからです。

 第1図を見て下さい。これはOECD加盟国の一般政府支出総額のGDP比を比較したものです。これを見ると、アメリカの比率は小さくなっており、スウェーデンの比率は大きなものとなっています。これを見ると、確かにアメリカは「小さな政府」であり、スウェーデンは「大きな政府」であると言えそうです。そして、日本についてみると、スウェーデンよりもアメリカの比率にはるかに近いので、日本も「小さな政府」であるように見えます。

【しかし、政府の規模は指標として適当ではないかもしれない】

 しかし、第1図でカバーされている国々には、人口規模や生活水準が異なる様々な国々が含まれています。もしそうした要因によって政府の規模が変わってくるとすれば、そうした要因を調整した上で比較する必要があるように思われます。

 そこで、そうした点を考慮して、第2図では一人当たりGDPと一人当たり一般政府支出総額の相関を見たものです。一人当たりにすることで人口規模の影響を取り除いたうえで、一般政府支出総額と生活水準(一人当たりGDPで代理)の関係を見ようというものです(ちなみに、同じ通貨単位に揃えるために、OECDが計算した購買力平価(PPP)を用いています)。

 これを見ると、両者の間には正の相関があり、一人当たりGDPが増加し、生活水準が上昇すると、それに対応して政府サービスへの需要が高まり、一般政府支出総額が増加するという傾向があることが分かります。また、回帰式の形状が示唆しているように、政府支出には、一人当たりGDP水準に関係なく政府を設立するために必要な固定費的要素を有する部分と、一人当たりGDP水準に対応して増加する変動費的要素を有する部分があるように見えます。もしそうだとすると、一般政府支出総額のGDP比(第2図で言うとその国を表す点と原点を通る直線の傾き)は、一人当たりGDPが増加するにしたがって低下していくはずです。つまり、このGDP比が小さいことは必ずしも経済政策に関する考え方が違うこと(自由放任主義か、福祉国家か)を表しているのではなく、単に一人当たりGDPの水準が違うことを示しているだけかもしれないのです。

 もっとも、より詳細に見ると、スウェーデンは一人当たりGDPでは日本より大きいのに、一般政府支出総額のGDP比は、日本より大きくなっています。このことは、スウェーデンの場合、一人当たりGDP水準以外の要因で一般政府支出総額が大きくなっていること、そしてそのことが福祉国家としての支出行動を表している可能性はあります。

 しかし、いずれにしても、各国の政府のあり方の違いを理解するには、一般政府支出総額以外の情報で補完をする必要がありそうです。その情報としてはどのようなものがあるのでしょうか。以下では、そうした情報の例として、一般政府支出の機能別内訳、製品市場における規制の程度、税・政府移転による所得再分配の大きさ、の三つを取り上げてみたいと思います。

【一般政府支出総額の内訳で見ると教育支出が少ない】

 まず、一般政府支出の機能別内訳です。

 国民経済計算(SNA)では、一般政府機能を、次の十に分けています。すなわち、①一般公共サービス、②防衛、③公共の秩序・安全、④経済業務、⑤環境保護、⑥住宅・地域アメニティ、⑦保健、⑧娯楽・文化・宗教、⑨教育、⑩社会保護、の十機能です。

 この十機能を前提に、それぞれの機能への支出が一般政府支出総額のうちどの程度の割合を占めているのかを、アメリカ、スウェーデン、日本の三か国について見たのが第3図です。

 第3図によると、印象とは違って、アメリカは広範な機能に対してかなり支出をしていることが分かります。しかし、唯一、支出が相対的に少ないのは、社会保護に対する支出です。傷病・障害、老齢、遺族、家庭・児童、失業などに対する支出を含む社会保護への支出割合は約20%ととどまり、スウェーデンの半分程度となっています。これに対して、スウェーデンは、39%が社会保護に、約14%が一般公共サービス、教育、保健のそれぞれに対する支出に充当されています。このうち社会保護への支出の違いは、アメリカとスウェーデンの政府へのあり方の違いを反映しているように思えます。

 日本について見ると、社会保護への支出は、スウェーデンと遜色がないことが分かります。しかし、一般公共サービスや教育に対する支出割合は、三か国の中で一番少ないとの結果となっています。日本については、高齢者関連の支出が多い一方で、若年層関連の支出が少ないとの指摘が良くありますが、第3図は、そのような事実を裏付けているように見えます。日本に福祉国家的な側面があるにしても、日本とスウェーデンとでは、実質的な内容は異なっているようです。

【政府規制ではアメリカとスウェーデンの中間】

 次に、製品市場における規制の程度について見てみましょう。

 第4図は、OECDが作成している製品市場規制指標(Product Market Regulation: PMR)を比較したものです。この指標は、値が大きければ大きいほど規制が強いことを表していますが、第4図によると、規制はアメリカで強く、逆にスウェーデンでは弱いという結果となっており、私たちのイメージとは逆の結果となっています。日本はというと、ちょうどアメリカとスウェーデンの中間に位置しています。

 PMR の内訳を見ると、アメリカの値が高いのは、国内における市場参入及び海外からの市場参入に対する障壁が高いことに起因しています。前者については、新規開業における許認可に関する事務作業面における負担が大きいことが指摘されています。また、後者については、外国企業による供給に対する扱いが問題とされています。このうち、国内における新規参入に対する障壁については、世界銀行が毎年発表するEase of Doing rankingでも指摘されています。それによると、2019年におけるアメリカのランキングは、総合では6位でしたが、新規開業(starting business)については55位にとどまる結果となっています。

 こうしたことから、アメリカでは市場メカニズムの機能の発揮に対して、政府の規制が制約になっているということが言えるようです。アメリカが自由放任主義であるとのイメージは、若干修正される必要があるように思われます。

【所得再分配の度合はアメリカとスウェーデンの中間】

 最後に、税・政府移転による所得再分配政策の大きさです。

 政府による所得再分配政策の大きさは、市場所得(再分配前)ベースの不平等度と、可処分所得(再分配後)ベースの不平等度の差で測ることができます。

 ただし、単純にその差を比較することには、問題があるかもしれません。 なぜなら、そもそも市場所得ベースの不平等度の低い国では、大きな再分配をする必要がないからです。その点を考慮するのであれば、再分配前の不平等度の水準を考慮しながら、所得再分配の大きさを比較する必要があることになります。

 そこで、第5図では、市場所得ベースのジニ係数と、可処分所得ベースのジニ係数の関係を見ています。もしある国が再分配を一切行わないとすると、ジニ係数は両者で同じになるので、この図で言えば、45度線上に位置するはずです。OECD加盟国で見ると、どの国も45度線より下に位置しているので、どの国も何等かの所得再分配を行っているようです。

 ただし、第5図は、その所得再分配の大きさに違いがあることも示しています。それを、各国の現状を示す点と45度線との間の垂直的な距離で見ると、スウェーデンの所得再分配の大きさは0.153ポイントとなっており、例えば日本の0.167ポイントより小さいものとなっています。しかし、スウェーデンの市場所得ベースのジニ係数はそもそも小さかったので、この程度の所得再分配でも、可処分所得ベースのジニ係数を日本より低い水準にまで低下させるのには十分であったことが分かります。なお、ここではいちいち数値で示すことはしませんが、スウェーデンを含む北欧諸国は、市場所得ベースのジニ係数はまちまちですが、所得再分配の結果、可処分所得ベースのジニ係数ではいずれも0.25程度となっており、OECD諸国でも最も低いグループに属することになっています。

 それに対して、アメリカは、市場所得ベースのジニ係数が高いうえに、所得再分配の大きさも限定的なので、可処分所得ベースのジニ係数も高いままとなっています。また、日本は、市場所得ベースのジニ係数は比較的高かったのですが、比較的大きな所得再分配をしている結果、可処分所得ベースのジニ係数は、OECD加盟国の中でも中程度の水準にとどまっています。

 このようにしてみると、所得再分配の大きさは、スウェーデンで大きく、アメリカで小さいものとなっており、スウェーデンが福祉国家であることに対応した結果になっていると考えられます。それに対して日本の所得再分配の大きさは、アメリカとスウェーデンの中間に位置しています。

【多面的な側面から評価をする必要】

 私たちは、しばしばアメリカを「小さな政府」、スウェーデンを「大きな政府」と特徴づけます。そしてその際には、「政府支出の大きさ」に焦点を当てることが多いように思います。しかし、政府支出の大きさは、政府のあり方に関する考え方を反映するだけでなく、人口の大きさや、生活水準の違いも反映するはずです。したがって、政府支出の単純な比較では、政府のあり方に関する示唆を得ることはできません。しかも、政府のあり方は、政府支出の大きさ以外で測られるべき面が数多くあります。特に、「政府が経済に及ぼす影響の大きさ」は、見落としてはならない重要な側面です。

 そこで、本コラムでは、政府支出以外の、三つの側面から、アメリカ、スウェーデン、日本の政府のあり方について見てきました。その結果、アメリカは、確かに自由放任主義的な政府としての側面を有していますが、規制などの面ではそうではないことが分かりました。また、スウェーデンについても、多くの場合、福祉国家としての特徴を示していますが、同じく規制の面では少しその様相は異なっていました。

 日本について言うと、アメリカと共通する自由放任主義的な政府の側面を有することがある一方、スウェーデンと同じく福祉国家としての特徴を示す場合もあります。

 以上のことが示しているのは、一国の政府のあり方を評価するときには、どのような側面からそれを評価したいのかを明確にした上で、その側面について、様々なデータからその姿を浮き彫りにすることが必要だということです。そうするのではなく、単一の指標だけに頼ってしまうと、誤解や混乱を招くだけに終わってしまう可能性があるように思います。