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齋藤潤の経済バーズアイ (第121回)

日本の不平等度を米国・スウェーデンと比較する

 

2022/05/02

【不平等度の違いをどう理解するか】

 所得の不平等度は、ほとんど全ての先進国において拡大しています。しかし、その拡大の程度については、国によってかなりの違いがあります。どうしてそうした違いが生じるのでしょうか。また、どのようにしてそうした違いは生じたのでしょうか。こうした点を考えるために、本稿では、日本における不平等度の拡大を米国とスウェーデンにおける不平等度の拡大と比較して考えてみたいと思います。

 この二つの国が選ばれた理由は、第1図を見ると分かります。不平等度の程度を市場所得(所得再分配前の所得)に関するジニ係数で見ると、米国の不平等度は極めて高いグループに属しているのに対して、スウェーデンは逆に低いグループに属しているのです。日本は、米国よりは低いものの、高いグループに属しています。

 このような不平等度の違いを見るために、ジニ係数の背後にあるローレンツ曲線の形状とその変化に着目して見たいと思います。そのためのデータは、第1図の基になっているOECDからは取れないので、World Inequality Database (WID)からとることにします。WIDは、トマ・ピケティ教授とその協力者たちによって整備されているデータベースです*。

 *以下で取り上げるデータは、課税前所得を基にした所得十分位階級別の所得割合に関するものです。ここでの課税前所得(ただし、社会保険方式による給付と負担は考慮後)は、大人一人当たりの課税前所得であり、「大人一人当たりの課税前所得」は課税前所得を大人の数で均等に配分したものです。したがって、第1図のベースとなっているような、市場所得(社会保険方式による給付と負担も未考慮)を子供を含む世帯人員の平方根で除して求めた「等価市場市場所得」とは異なるものであることに注意して下さい。

【疑似ローレンツ曲線の変化】

 WIDのデータに基づいて疑似ローレンツ曲線(個別の世帯ごとのデータに基づいていないのでこう呼ぶことにします)を、日本、米国、スウェーデンについて描いてみると、第2図のようになります。ここでは、日本についてデータが入手可能な期間の最初の年である1980年と、最後の年である2017年の両年について描いています。

 これを見ると、国別のローレンツ曲線の位置が、第1図と整合的であることが分かります。すなわち、2017年にスウェーデンのローレンツ曲線を見ると、日本や米国のそれに比べると45度線に近く、より平等であったことが分かります。また、日本と米国のローレンツ曲線は極めて近いものの、日本のは米国のより45度線に近いところに位置しているので、日本は米国より平等であることが確認できます。

 第2図で興味深いのは、1980年について見ると、日本のローレンツ曲線に比べると、スウェーデンのそれの方が45度線に近いだけでなく、米国のそれも45度線に近いことです。しばしば米国の不平等度は1980年前後を境に縮小から拡大に向かったと言われていますが、最も縮小した時期の米国は日本より平等だったことを示唆しています。(他方、米国とスウェーデンの関係は、疑似ローレンツ曲線が交差しているため特定できません。)

 第2図は、1980年から2017年にかけて、三か国とも不平等度が拡大したことも示しています。しかし、スウェーデンの不平等度の拡大は限定的であったために、2017年においても他の二国より平等であったし、日本の不平等度の拡大も米国ほどではなかったので、結果的には日米で逆転し、2017年時点では米国の方が日本より不平等な状態になったことが分かります。

【所得十分位階級別の所得割合の変化】

 こうした変化の背後にある所得の変化を見てみましょう。第3図は、1980年から2017年にかけての所得十分位階級別の所得割合の変化(最右端を除く棒グラフ)及び、所得上位1%層の所得割合の変化(最右端の棒グラフ)を見たものです。

 この図を見ると、次のようなことが分かります。

 第1に、いずれの国においても、不平等度が拡大した理由は、所得十分位別階級の下位9階級で所得割合が低下したのに対して、最上位の第十分位で所得割合が上昇したからだということです。

 第2に、所得割合が低下した下位9階級の中で低下の中心になったのは、最下位の所得階級ではなく、それよりも所得の多い、中程度の所得階級であったことです。

 より詳しくみると、低下の中心であったのは、日本の場合には第8分位と比較的高い所得分位であるのに対して、米国は第5分位、スウェーデンは第3分位であったことが分かります。つまり日本の場合には、より所得の高い所得層の所得割合までもが低下していたのです。

 第3に、所得十分位階級の最下位における所得割合の低下と最上位の所得割合の上昇が最も著しかったのが米国で、日本とスウェーデンでは、その程度は相対的に小幅であったことです。米国における近年の急激な不平等度の拡大の原因として、しばしば一部の高所得層における大幅な所得割合の上昇が指摘されますが、そのことと整合的なものとなっています。

 第4に、所得上位1%層の所得割合の変化を見ると、日本における上昇は、米国よりはもちろんのこと、スウェーデンのそれよりも小さかったことです。日本では、高所得層の所得割合の上昇があったとはいえ、上位1%層という極めて所得の高い階層への所得の集中は、他の二か国ほどではなかったことが分かります。

【不平等度の経年的変化】

 最後に、各国で不平等度が経年的にどのように変化してきたかを見てみましょう。

 第4図は、1980年から2017年にかけての三か国における疑似ジニ係数の変化を見ています。

 これを見ると、バブルが崩壊すると、各国ともその直接的・間接的影響を受けて、不平等度が縮小することが示唆されています。また、そうした影響を除くと、国によって長期的なトレンドは異なっていることも分かります。

 例えば、米国について言うと、ITバブルが崩壊した2000年代初頭や、サブプライム住宅ローン問題が顕在化し、リーマンショックに至る2000年代後半においては、不平等度は縮小し、疑似ジニ係数は低下しています。しかし、そうした時期を除くと、基本的には疑似ジニ係数は上昇トレンドにあったと言えます。

 また、スウェーデンの場合には、バブルが崩壊し金融危機に見舞われた1990年代初頭や、ITバブル崩壊の影響を受けた2000年代初頭、さらにはリーマンショックの影響を受けた2000年代末には、疑似ジニ係数は低下しました。しかし、そうした時期を除くと、2000年代以降はほぼ横ばいで推移してきたように見えます。

 これに対して、日本の場合には、バブル景気の崩壊後の1990年代初頭や、リーマンショックの影響を受けた2000年代末には疑似ジニ係数は大幅に低下しました。しかし、そうした時期を除くと、2000年代半ばまでの時期においては、上昇トレンドを示してきたように見えます。

 しかし、2010年代初頭以降は、不平等度は拡大も縮小もせず、疑似ジニ係数もほぼ横ばいで推移するようになってきました。アベノミクスの時期には、一般的には不平等度は拡大していたと考えられているだけに、このことは注目されます。(なお、この点については、2021年12月のコラムで検討したことがあります。「アベノミクス下で不平等度はどのように縮小したのか」を参照してください。)

【長期トレンドの違いはどのように説明できるのか】

 このような、国による不平等度の長期トレンドの違いは何によるものなのか。それは、市場メカニズムをどれだけ生かそうとするかという経済システムの違いを反映してるのか、それとも、所得再分配以外の面における政府の機能の違いによるものなのか。あるいは、不平等度の拡大をもたらすと考えられる技術進歩やグローバル化のあり方の違いが大きいのか。

 こうした点についての研究は、今後の課題として残されています。