一覧へ戻る
山田剛のINSIDE INDIA (第135回)

コロナを超えて~インド航空業界の再出発

新規参入や運航再開相次ぐ~巨大新空港建設も

 

2022/07/08

 コロナ禍で運航停止など深刻な打撃を受けたインドの航空業界が回復基調を鮮明にしている。今春以降の出入国規制緩和で旅客数も増加に転じており、タタ・グループ傘下の民間航空として新たなスタートを切ったエア・インディアを始め、約3年ぶりに運航を再開するかつての国内線首位・ジェット・エアウェイズ、カリスマ投資家ラケーシュ・ジュンジュンワーラ氏が出資するアーカサ航空の新規参入など話題も豊富だ。インド政府は来る航空ブームに備え、地方空港の活性化を狙った振興政策を推進、首都圏第2空港と位置づけるノイダ国際空港、ムンバイ国際空港の機能を補完するナビ・ムンバイ国際空港など大型新空港の建設も加速している。その一方で、ロシア・ウクライナ危機のあおりで燃料価格が高騰するという悪条件も出現している。インドの航空業界は再び羽ばたけるのかーーー。

旅客数は急回復

 民間航空省によると、暦年2021年の国内線・国際線旅客数(不定期便含む)は約9200万人で、前年比29%の大幅増加を記録した。しかし、これは6年前、2015年の実績にも届かず、最近のピークだった2019年の1億6840万人の半分強に過ぎない。それでも、今年5月の国内線旅客数は約1208万人と、コロナ感染第2波の真っただ中だった前年同月と比べて5.7倍に増加、1-5月累計でも4788万人で、前年同期比53%の増加を記録した。は2480万人と前年同期比6.1%増を記録した。コロナ禍で2020年度、エアライン合計で約1900億ルピー(約4000億円)もの赤字を計上、国内各空港も合計340億ルピーの赤字を出すという暗黒の歴史は、ようやく過去のものになったと言えるだろう。

 約70年ぶりにタタ・グループ傘下に復帰し1月末に民営化を完了したエア・インディアは4月、最高経営(CEO)前トルコ航空会長のイルケル・アイジュ氏を迎えた。最大で113機を擁していたAIだが、現在は約80機体制となっており、国内線では旅客シェアの低下に歯止めがかからない状況。ドル箱の国際線のテコ入れで早期の経営再建を目指す。6月には2006年以来の新規調達となるエアバスA-350型機の導入を決定、23年3月から順次就航する見通し。シンガポール航空との合弁会社「タタSIA」によるフルサービス航空「ビスタラ」や、エア・アジア・インディアと合わせ、タタは3つの航空会社を抱えることになったが、今年1月、タタSIAのバスカール・バート会長は「AIとビスタラの経営統合は考えていない」とコメントしている。そのビスタラは過去1年半余りで12機を増強し、今年1月時点で51機体制となった。

かつての国内線旅客シェア首位で、経営破綻により2019年4月に運航を停止していたジェット・エアウェイズは5月、試験飛行などの審査を終えて民間航空省からライセンスの再交付を受けた。今年7月にも運航を再開する見通し。同社は「債務超過・破産法(IBC)」に基づき、国家会社法審判所(NCLT)の裁定を経て印投資会社カルロック・キャピタルと中東のビジネスマン、ムラリ・ラール・ジャラン氏によるコンソーシアムが経営を引き継いでいる。新CEOにはノースウエスト航空やユナイテッド航空などで20年以上の経験を持つサンジーブ・カプール氏が就任、最高財務責任者(CFO)には元スリランカ航空CEOのビプラ・グナティレカ氏を起用している。リース契約終了や売却などで散逸した航空機を補うため、ボーイングやエアバス、エンブラエルなど航空機メーカーとの調達交渉を進めているが、現地経済紙によると、エアバスA320や最新鋭機で大型機並みの居住性を持つA220型機などをラインナップに持つエアバスが一歩リードとのことだ。また、客室乗務員(CA)を確保するため、6月末からはAI同様に辞職した元社員らに再雇用を提示している。

国内線で50%を超える圧倒的なシェアを握っている国内線首位のインディゴ(インターグローブ・アビエーション)は5月、オランダ・KLM航空との共同運航で新たに国際線16路線を開設するなど、行動規制緩和を機に攻めに転じている。

インドを代表するカリスマ投資家ラケーシュ・ジュンジュンワーラ氏の出資で話題となった新規参入組のアーカサ航空は、新鋭機「ボーイング737MAX」72機を約90億ドルで発注。7月中の運航開始を予定している。アメリカン航空やデルタ航空、ジェット・エアウェイズなどの経営に参画してきたCEOのビナイ・デューベ氏は「エントリー旅客とフリークエント・フライヤー(FF)の両方を重視する。格安航空ではないが、座席はビジネスクラスを設けない1カテゴリーとする。航空機も1機種のみ。主に(ムンバイ、バンガロールなど大都市以外の)都市間輸送を担う」と話しており、将来は国際線進出も視野に入れている。6月にはB737MAXの1号機がデリバリーされ、23年3月までに18機体制とし、パイロットとCA合計350人を雇用する計画。各社に割り当てられるエアライン・コードも「QP」に決まった。

航空機需要にも期待が高まる。22年3月末時点でインドの航空会社が保有する航空機は674機。コロナ前の予想ではあるが、米ボーイングはこれが2038年までに2380機に増加する、としている。また、コロナ禍まえにインド進出の意向を表明していた仏エンジン・メーカーのサフラン・グループは7月上旬、南部ハイデラバードに2億ドルを投資して航空機の整備工場を建設する計画を明らかにした。

巨大空港の整備も進む

航空旅客の増加に伴い、コロナ禍前には混雑ぶりが深刻となっていた各地のハブ空港の機能を分担すべく、新空港の建設も進んでいる。2018年に着工した商都ムンバイ郊外の「ナビ・ムンバイ空港」は2024年の開港予定。2本の滑走路を備えた世界最大級の空港で、第1期の総工費は約1600億ルピー(約2600億円)。巨大インフラ企業アダニ・グループの子会社とマハラシュトラ州都市産業開発公社(CIDCO)の合弁会社が運営主体。インド版の「関西国際空港」と言えるだろう。

羽田の補完を狙ったかつての成田空港のように、「首都圏第2空港」と位置付けられているのが、デリー郊外の産業都市ノイダで建設が進む「ノイダ国際空港」。こちらはチューリヒ国際空港AGが100%出資する「ヤムナー国際空港会社」が運営する。今年5月からはターミナルビルと管制塔、滑走路の建設に着手、24年9月の開港を目指す。第1期の総工費は573億ルピー。

22年6月には、モディ首相の地元・西部グジャラート州中部で建設する「ドレラ国際空港」の第1期工事が閣議決定された。同空港はアーメダバード国際空港の機能を補完するのが狙いで、利用旅客数は当初年間30万人、開港後20年で同230万人まで増加する見通しだ。

ナビ・ムンバイ国際空港のプロジェクト紹介ビデオ

中小ローカル空港の活性化も図る

 インド政府は2016年、地方中小都市からの航空便需要を発掘しようと、地域航空輸送網整備スキーム(UDAN)を導入、主に小型航空機を対象に座席数の半数まで最大で片道2500ルピー(約4000円)の補助金を支給している。これまでに運航再開も含めて948路線がUDANの対象となり、ヘリポートや水上飛行機用も含めて65の空港が新規開港または再オープンした。各地のハブ空港と中小都市を小型機で結ぶ路線が大多数で、これまで航空機での移動に縁がなかった人たちに利用してもらうことを狙っている。

航空燃料費は史上最高値圏

 このように、満を持して再出発するインド航空業界だが、その行く手には燃料費の高騰という向かい風が吹き付ける。国営石油会社による航空燃料(ATF)の販売価格は6月中旬に前月比で16%引き上げられ、1キロリットル当たり14万1000ルピーと過去最高になった。これは21年6月と比べるとほぼ2倍に高騰している。燃料価格は運航コストの40%前後を占めるだけに、ATFの高騰は航空各社の収益を圧迫している。国内線首位・インディゴの営業収入は22年1-3月期に前年同期比約29%増となったが、燃料費の高騰が響いて同時期の赤字幅は実に約45%も拡大した。

さらに、航空不況で大量に解雇したパイロットなどキャビン・クルーの確保にも困難が伴う。増便を計画している大手航空会社は相次いで乗員の再募集に乗り出しているが、早くもエアライン同士での争奪戦が始まっている。利益なき値引き競争を抑止し、利用客を保護する目的で導入された航空運賃の「上限・下限」も、一部航空会社からは「レジャー客、ビジネス客などを一律に対象とするのは不適正」「ウクライナ危機で原油価格が高騰している状況下では意味がない」として撤廃を求める声が出ている。

国土の大きさはもちろん、人口100万人を超える大都市が50以上も点在するインドにとって、航空輸送には巨大な潜在需要があることに疑いはない。短期的には多難なテイクオフ、ということになりそうだが、今度こそ適正な競争とサービスの向上によって業界が健全な発展を遂げることを期待したい。

*第100回(2018.5.11)までのバックナンバーはこちら

===安倍晋三元首相を悼む===

第1次安倍政権時代の2007年以来、首相として4度にわたってインドを訪問し日印関係の拡大・強化に尽力した安倍晋三元首相が凶弾に斃れた。来日したモディ首相を自身の別荘に招くなど活発な首脳外交で信頼関係を構築し、2017年には日本が全面協力するインド初の「新幹線」着工を実現。日米印の海上合同演習や防衛装備品の共同開発、日印の「2プラス2(外務・防衛閣僚級会合)」を確立するなど、ビジネス中心だった日印協力を防衛・安全保障の分野にも広げた。

2016年にケニアで開いた第6回アフリカ開発会議(TICAD6)で自らが提唱した「自由で開かれたインド・太平洋」構想は、その後の我が国のアジア・太平洋外交の基本理念となり、日米豪印4カ国による「クアッド」へと結実。地域の安定や域内のインフラ協力などに道を開いた。首相退任後もインドとの友好に務め、今年6月には森喜朗氏の後を継いで公益財団法人・日印協会の第8代会長に就任したばかりだった。

心からご冥福をお祈りいたします。

(主任研究員 山田剛)