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山田剛のINSIDE INDIA (第138回)

瀬戸際のインド最大野党、新総裁に再建託す

総裁選でベテランのカルゲ氏勝利

 

2022/10/28

137年の伝統を誇り、独立の父マハトマ・ガンジーや初代首相ジャワハルラル・ネール、そしてその娘インディラ・ガンディー元首相ら錚々たる指導者を輩出したインド最大野党の国民会議派(INC)は10月17日に総裁選を実施し、ガンディー家に近いベテラン政治家で連邦鉄道相や労働・雇用相などを歴任したマリカルジュン・カルゲ氏(80)が7897票を獲得して当選した。対立候補で「改革派」と目されたシャシ・タルール元外務担当国務相(66)は1072票の得票にとどまった。当の実質的「オーナー」であるガンディー家メンバー以外の党総裁誕生は実に約24年ぶり。カルゲ氏は若手や女性、後進カースト層の登用や党首脳部への権力集中を見直すなど、抜本的な党改革に着手するが、ガンディー家の忠臣と目されているだけにどこまで独自性を発揮して改革に踏み込めるかは不透明だ。2014年総選挙で敗北・下野して以降続く党勢の衰退に歯止めをかけ、2024年に迫った次期総選挙でモディ首相率いる与党・インド人民党(BJP)に一致報いることができるかーー。老舗巨大政党を率いるカルゲ氏の指導力が問われる。

求心力低下で幹部の離党相次ぐ

独立インド75年の歴史で通算50年以上にわたって政権を担ってきた老舗政党・国民会議派は約4000万人の党員を抱えるほぼ唯一最大の「全国政党」と言える。しかし、汚職の蔓延や社会正義の揺らぎなどを背景に14年総選挙で大敗し下野。その後の各州議会選でも苦戦が続き、与党BJPによる議員引き抜き工作に屈して中部マドヤプラデシュ、南部カルナタカなどの重要州で相次ぎ政権の座から陥落。州政権を担うのは連立も含めて29州のうち4州のみ。19年の下院選ではわずかに議席を増やし定数543議席の国会下院で52議席と踏みとどまったが、300議席を超えたBJPとはもはやライバルとも言えないほどの差がついている。

今回の総裁選実施に至った背景には、ガンディー家による支配体制への強い反発があった。ネール元首相のひ孫・ラフル・ガンディー前総裁(52)は14年、19年の総選挙で陣頭指揮をとったがいずれも敗北し、総裁就任後2年弱で引責辞任。母親で故ラジブ・ガンジー元首相の妻ソニア・ガンディ氏(75)が「暫定総裁」として再登板していた。職務を放棄して突然海外での休養を発表するなど、政治家としての資質を問われることが多かったラフル氏はその後もシンボルとして担がれてはいるが、党の運営で強いリーダーシップを発揮することはなかった。

そうした中、アナンド・シャルマ元商工相や、ミリンド・デオラ元IT担当国務相、カピル・シバル元人的資源開発相など閣僚や州首相(県知事に相当)経験者ら党の改革派幹部23人(G23)は20年8月、ソニア氏に対し党再建のための組織刷新を要求する書簡を送付。これを受けて党首脳部は早期の総裁選実施を表明していたが、コロナ禍で実施が延期されていた。国民会議派にとって正式な選挙によって総裁が決まったのは過去50年間でわずか2回。前任者のソニア氏も、1998年に総裁に就任してから長男ラフル氏に職を譲った2年間を除いて実に22年間も総裁の職にあった。

こうした体制に、党所属の議員らの不満は限界に達していた。カシミール地方出身のベテラン政治家で保健・家族福祉相やジャム・カシミール州首相などを務めたグラム・ナビ・アザド前上院議員(73)は今年8月に突然離党。「古参リーダーが排除され、ラフル氏とその取り巻きのせいで党内民主主義が崩壊している」などと党首脳部を厳しく批判した。同月には党幹部で北部ヒマチャル・プラデシュ州支部長を務めていたシャルマ元商工相が、自身への「絶え間ない中傷」を理由に党のすべての役職を辞任している。

何が問題なのかーー。これまでの取材を総合すると、国会や州議会選挙への立候補に際しての「公認」プロセスや、党幹部の人事に対する不満が最も多い。党の公認がガンディー家との親密度合いによって決まるケースが多く、州支部も含めた党幹部人事も、同様に党の長老や閣僚経験者などが幅を利かせて若手や女性に出番が回ってこないのだという。

西部ラジャスタン州では2018年、州議会選勝利の立役者となった若手ホープ、サチン・パイロット元通信・IT担当国務相(45)の州首相就任が期待されたが、ベテラン政治家で今回総裁選でも最有力候補と言われたアショク・ゲーロト氏が党中央の意向もあって州首相に就任。州の副首相に据え置かれたパイロット氏は後にゲーロト氏と対立し、離党も辞さない構えを見せた。同様に若手の有望政治家でマハラジャ(藩王)の末裔(まつえい)として知られるジョティラディティヤ・シンディア氏(51、現在はモディ政権で民間航空相)は2020年、配下のマドヤプラデシュ州議会議員22人とともに電撃離党し、会議派州政権を崩壊に追い込んでいる。選挙を監視しているインドの市民団体「民主改革協会(ADR)」によると、14年から21年にかけて177人もの国会・州議会議員が国民会議派を離党した、という。

ガンディー家大番頭が目指す「ガンディー家」離れ

今回の総裁選の目的も本来は、長年の「ネール・ガンジー家支配」から脱却し、党の再建を目指す新たなリーダーを選ぶ、ということだった。カルゲ氏に挑んだタルール氏はデリー大の聖ステファン・カレッジや米タフツ大などの名門校で学び、コフィ・アナン氏の下で国連事務次長を務めて難民問題やPKO(国連平和維持活動)などに取り組んだ実績がある。タルール氏は立候補届け出後ただちにマニフェストを発表、党中央執行部の任期制限や州支部への権限委譲、女性や若手、後進カースト出身者の登用、党役職の兼務禁止などを掲げた。マニフェストでは、立候補者の公認も「半分を50歳以下にする」としている。おそらくこれらが、今最も求められている改革メニューに違いない。

南部カルナタカ州の後進カースト出身であるカルゲ氏は、マイノリティーへのアピールという点では申し分ない。マニフェストでは同様に「党の役職の50%について、50歳以下の党員を起用する」と表明したものの、農村の活性化や中小企業支援など、打ち出した政策にあまり新味はない。ガンディー家との関係については当選後に現地紙に対し「意思決定で相談することはないが、意見を言ってもらって我々を導いてもらいたいと思っている」などと発言していたが、なんとも歯切れが悪い。与党BJPがかねてカルゲ氏を「ガンディー家の代理人」と揶揄していたのもあながち的外れではないようだ。

総裁選では当初、ソニア氏らガンジー家の信任が厚い西部ラジャスタン州の首相のアショク・ゲーロト氏(71)が本命視されていた。だが、同氏の中央政界転出でパイロット氏が復権すれば自分たちの処遇が危うくなると慌てた州議会議員らの猛反対に遭って立候補を辞退。代わって国民会議派政権で鉄道相などを務めた前野党上院議員団長のカルゲ氏に白羽の矢が立った経緯がある。党の再建という大事の前になんとも矮小な話だが、これが地方議員の実態である。

カルゲ氏の勝利は、党リーダーの多くがやはりガンディー家の旗の下に集まろうとした結果だ。変革を嫌い、ひとまずはガンディー家を支えて結束しよう、というのが今回の総裁選に臨んだ党員らの総意だった。

総裁選では党重鎮はもちろん、プリトビラージ・チャワン元マハラシュトラ州首相、ブピンデル・フーダ元ハリヤナ州首相、マニシュ・テワリ元情報放送相ら、タルール氏と行動を共にしてきた改革派議員も多くがカルゲ氏の「推薦人」に名を連ねており、投票前からカルゲ氏優位は揺るがない情勢だった。これに対し米ワシントン・ポスト紙などに寄せた論評などで国際派のインテリとして定評があるタルール氏はテレビ討論での強さやSNS(交流サイト)のフォロワー数の多さでも知られ、若者や都市住民に支持者が多かったが、総裁選の「有権者」は党支部の幹部などベテランがほとんど。カルゲ紙の牙城を崩すには至らなかった。それでもタルール氏は有効得票の約12%、1072票を集めており、高齢化した国民会議派においては大健闘と言っていいだろう。

課題山積の巨大政党を率いるカルゲ新総裁。党勢衰退に歯止めをかけて次期総選挙でBJPを脅かすことができるのかーーー。ガンディー家に近い政治家が影響力を強めたあげく、次の選挙でも大敗するような事態となれば、いよいよ改革派が反旗を掲げて党の分裂を招く可能性もある。国民会議派新総裁の手腕は、インド現代政治史においても大きな転換点となるだろう。

*第100回(2018.5.11)までのバックナンバーはこちら

 今回も「政治」の話です。先進国や資本主義の常識が通用する経済やビジネスと違って、複雑怪奇で登場人物が多いインド政治をわかりやすく解説するのは毎回苦労します。特に、モディBJP「一強」が長くなったインド政界において、万年野党に転落しつつある国民会議派のニュースはあまり見かけません。イスラム教徒に差別的な改正国籍法(CAA)施行などを見るまでもなく、強力なヒンドゥー至上主義団体がバックについているBJPはしばしば宗教色が濃く民族主義的な政策を打ち出してきました。こういう時こそ、長年「世俗」や「カースト間融和」を掲げてきた国民会議派の出番なのですが、現実はそうなっていません。

 今回の総裁選は、国民会議派が巻き返しを目指す最後のチャンスになるかもしれません。多様性の中の統一こそがインドという多民族・多宗教国家の真骨頂。まったくの個人的見解ではありますが、インドにこそ健全な「二大政党制」がふさわしく、そのためにも最大野党・国民会議派の役割に期待したいところです。

(主任研究員 山田剛)