代表挨拶

「富士山会合ヤング・フォーラム」座長

白石 隆 (公立大学法人 熊本県立大学理事長)

 世界は急速に変化しています。世界が一つになる、それは先進国にも途上国にも良いことだ、そのようなグローバル主義のイデオロギーはほぼ説得力を失いました。しかし、AI・ロボティックス、量子技術、自動化、素材、バイオテクノロジー、BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)などの新興技術の発展で、産業技術革命は急速に進んでおり、それが世界的にも地域的にも富と力のバランスを大きく変えつつあります。国際政治経済における新興国の台頭、米中対立の激化はその一つの表れであり、ポピュリズムと「多数派主義」の広がりは先進国と新興国における国民の期待のあり方と深く繋がっているように見えます。さらに将来をみれば、上に述べたような趨勢はおそらくもっと顕著になるでしょう。それは2040年頃までに、中国とインドが米国と並ぶ超大国となり、インドネシアの経済規模が日本を凌駕し、カナダ、オーストラリア、ベトナム、フィリピンなどがミドル・パワーとしてインド太平洋で重要な役割を果たすようになるだろうことを考えても明らかだと思います。

 しかし、これは、日本が国際的にその政治経済的重要性を失っていくということではありません。日本は経済規模でみれば大国からミドル・パワーとなっていくでしょう。しかし、世界政治の主要舞台がインド太平洋に移り、海洋アジアと大陸アジアの対立が主要対立軸となるとともに、日本は「前線国家」となります。また、経済的には、インド太平洋の経済規模はすでに北米、欧州よりはるかに大きくなっておりますが、日本はインド太平洋、さらには世界的な技術優位をめぐる競争において、ボトルネックを掌握し、戦略的プレーヤーに留まることができると思います。

 日本は第二次大戦以降、日本国憲法と日米同盟の下、国民の厳粛な信託によって国政を行い、自由で豊かで安全・安心な、また、国際的にみればそれなりに豊かで平等な社会を作り上げ、世界とアジアの平和と安定と発展に貢献してきました。では、我々はこうした先人の成果を継承しつつ、いかにして急速に変化しつつある世界とアジアの中で生きて行くのか。どのような日本を作るのか。

 「富士山会合ヤング・フォーラム」は、こうした日本の戦略的課題に正面から向き合い、議論し、政策提言を行う、開かれた政策コミュニティの形成を目的としています。ぜひ、知的構えの大きい、想像力豊かな、議論と提言の場を一緒に作っていくことを期待します。