2011 年3月の福島第1原発事故以来、電力不足や電気料金の引き上げへの不安が高まっている。産業界は料金の引き上げ回避策として「原発再稼働」を求めるが、一方で省エネルギー・節電へ着々と努力している。円高是正の効果も相まって日本企業の業績は急回復をみせている。省エネ・節電は成長の足かせとなるのか、探ってみた。
<要旨>
1. 福島第1 原発事故後、エネルギーコスト上昇に伴う省エネ・節電が石油ショック時並みに進み始めた。今後も電気料金の引き上げが予測され、価格メカニズムによる省エネは加速するだろう。産業部門では鉄鋼以外の化学、パルプ・紙、窯業・土石といったエネルギー多消費産業で電力効率の改善が著しい。機械、自動車といった主力の輸出産業はエネルギーコスト上昇の影響をほとんど受けていない。製造業全体では、円安のメリットの方がコストの上昇を上回っている。業務(オフィス・店舗)や家庭といった民生部門は、2000 年代半ばから省エネが進み、今後、人口減少の効果も加わりエネルギー消費量が大きく減る可能性が高い。運輸部門も同様と考えられる。
2. 石油ショック時は省エネをテコに製造業が飛躍的に国際競争力を高め、日本の成長のバネの一つとなった。各産業の省エネが加速したことに加え、エレクトロニクスを中心としたハイテク・省エネ型の産業が台頭、日本経済を牽引したからだ。一方、家庭や運輸部門は、生活水準の向上に伴い、家電や自動車の普及、レジャーの拡大などでエネルギー消費量は増加した。2000 年代は温暖化ガス削減を義務づけた京都議定書に対応した環境規制や省エネルギー法の強化などによって民生部門や運輸の省エネが進んだことは無視できない。国際的なコミットメントは省エネを後押しすることに役立つ。
3. 2014 年2月にとりまとめた「グローバル予測と日本の3つの未来」は長期的な経済成長を実現した場合、2050 年度の国内エネルギー消費量は10%程度の減少になるとした。今後、非製造業が主体の経済構造へ転換を図れば同40%減になる。非製造業が主体となりつつ成長のバネにするには、金融と情報通信技術(ICT)分野の生産性向上が欠かせない。ICTの進歩と利活用は、あらゆる分野の省エネと産業競争力向上を両立するカギでもある。そのためエネルギー・環境へ配慮した税制の導入や設備機器ではなく知識資本投資の促進策が必要となる。
図 経済成長とエネルギー効率、同消費量、化石燃料価格との関係
(注)経済構造変化を前提とした場合のエネルギー効率の改善スピードは、石油ショック時並みとなっている。構造変化なしでは、石油ショック時から2010 年度までの平均的な改善スピードとほぼ同様になる。2050 年度までの平均成長率は1.4%
(資料)日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧2014」、国民経済計算、国内企業物価より推計。
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