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コロナ危機と闘う

ワクチン・アクセスの南北格差の解消に経済合理性

−援助から戦略的投資へのパラダイム・シフトを−

泉谷諒(研究生 大成建設より派遣)
   
出口恭子
  主任研究員

2022/01/05

《ポイント》

(1) 新型コロナウイルス・ワクチンは、異例のスピードで開発に成功できたが、途上国での接種の遅れから、21年中に世界人口の半分が接種できていない。

(2) 途上国へのワクチンの供与は、国際的なワクチン供給を担うCOVAXを通じて進みつつあるが、ワクチンが確保されてもすみやかな接種につなげられていないことが大きな課題だ。低位中所得国では確保したワクチンのうち約3割しか接種できていない。低所得国は約1割とさらに低い。

(3) 20か国・地域(G20)メンバーでも、南アフリカでの接種率は30%に満たず、インドネシア、インド 、ロシアも40%前後にとどまる。

(4) 新興国や途上国でのワクチン接種の遅れによって、世界経済が被る経済的損失は、それらの国でのワクチン接種等に必要なコストを大きく上回る。感染力が強いとされる「オミクロン株」の感染拡大により、この側面はさらに強く実感されるだろう。公平な世界的ワクチン普及のために、先進国が財政面、技術面で積極的に支援することは、倫理的、人道的な責任だけでなく、経済的合理性がある。

(5) 新たなパンデミックに対する備えとしても、低所得国の感染症対策は援助ではなく国際的な戦略的投資という視点へのパラダイム・シフトが必要だ。

【パンデミックによる経済損失額(先進国と新興国・途上国との比較)】

(注) 2019年現在の米ドル換算。中国とロシアは、国産ワクチンによる接種が可能であるため、先進国に含める。
(資料)Çakmakli et al.(2021)、Agarwal and Gopinath(2021)より日本経済研究センター作成。

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