新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が日本の医療体制の脆弱性を浮き彫りにした。病院・診療所など医療機関が抱える病床の数を人口あたりでみると、日本は主要国のなかで最多である。急性期病床に絞っても日本は最も多い。一方、コロナ感染の勢いは世界的にみて弱いにもかかわらず、患者が十分な治療を受けられない事例が相次ぎ、本来なら救える重症患者を死にいたらせる事態が発生した。パンデミックへの備えは、国の安全保障そのものである。
日本経済新聞社と日本経済研究センターは医療改革研究会を組織し、パンデミックのような有事は当然として、平時から患者が真に満足できる医療サービスを受けられるようにするための緊急改革提言をまとめた。政府・地方自治体が医療機関にガバナンスを働かせる仕組みをつくるとともに、デジタル技術を有効活用し医療体制を再構築する「ヘルスケア・トランスフォーメーション」(HCX)の実現を求める。
《骨子》
I.全国の医療データを可視化 ①コロナを「ふつうの感染症」に ・オミクロン型が下火になればコロナをインフルエンザと同等の扱いに ・強毒かつ強感染力の変異ウイルス出現時には柔軟に ②病床確保に政府のガバナンスを ・保険医療機関は政府・自治体が病床や診療科などをコントロールできるように ・医療資源・人材の地域別状況をデジタル化し政府・自治体がリアルタイムで把握 ③医療有事の司令塔を新設 ・内閣官房対策室と厚労省の二元行政体制はぎくしゃくした ・非常時に医療資源・人材を総動員するための指揮権をもたせよ II.医薬イノベーションで早期承認 ①臨床データ集め治験を効率化 ・有効性と安全性を満たす新薬を素早く医療機関に届ける体制が必要 ・ナショナルセンターを活用した国主導の治験を増やせ ②有事の承認審査を確立 ・緊急時は米国のように薬の緊急使用許可を認めるべきだ ・国産のワクチン、治療薬の迅速な開発とグローバルなワクチン供給を III.社会保障の負担・給付改革に着手せよ ・社会保険料率30%が間近。これ以上の上昇は持続可能ではない ・社会保障給付の膨張を圧縮するとともに消費税10%後へ与野党合意を探れ
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