一覧へ戻る
日経JCER医療改革研究会

医療資源の浪費を招く「急性期神話」

名ばかり病床は医療危機の一因に

田原 健吾
  データサイエンス研究室長兼主任研究員
北爪 匡 日本経済新聞社 編集 データジャーナリスト
   
監修:高久 玲音 一橋大学准教授
   

2022/06/19

厚生労働省が公表する病院ごとの人員・設備・医療行為の実績をまとめた「病床機能報告」や医療データ会社ミーカンパニーの「SCUEL データベース」を用いて、急性期機能を報告する病院の資源配分や医療実績の状況を分析した。

<ポイント>

  • 日本の医療提供体制は、他国に比べ医師の数が少ない一方で、病床の数が際立って多い。中でも急性期医療に病床が偏在する傾向が強く、新型コロナウイルス禍における受診控えなどで稼働率が低調だったなかでも報酬の高い急性期病床は増え続けた。
  • 「急性期神話」とも呼べるほどの急性期偏重の背景には、公定価格である入院料を病院側が実質的に自らの裁量で選べる報酬体系がある。各病院は医療行為の実績を必ずしも伴わなくても看護師の配置基準などを満たせばより高い入院料を算定できる。医療機関・病棟ごとの個票データ分析の結果、「なんちゃって急性期」とも言われるこうした実績のない病床は急性期病床全体の3分の1超を占めることが明らかになった。
  • 急性期病床は医師や看護師など人的な医療資源をより多く抱え込むため、実績のない名ばかり病床は人材と医療費の両方を浪費する。医療密度の低い急性期病床が小規模に分散している現状は、コロナ禍のような非常事態への対応の遅れにつながるばかりか、質の低下につながり医療の中長期的な持続可能性を損ねる。さらに働き方に対する意識の変化によって、現状の急性期病床を維持するのに十分な医師や看護師を今後も確保できるかは見通せない。詳細な診療実績に即した報酬の算定方法へ改善を進めるなどして、人口や財政の構造変化に見合った医療資源の再配分を進めるべきだ。

急性期病床規模別の病床数内訳

バックナンバー

2022/09/16

医療DXに機運、データ標準化など急げ

「医療シンポジウム」要旨

日本経済新聞社・日本経済研究センター医療改革研究会

2022/06/20

デジタル医療を成長の原動力に
HCX深化で患者本位のサービスを

日本経済新聞社・日本経済研究センター医療改革研究会

2022/06/19

医療資源の浪費を招く「急性期神話」

名ばかり病床は医療危機の一因に

田原 健吾 / 北爪 匡 日本経済新聞社 編集 データジャーナリスト/ 監修:高久 玲音 一橋大学准教授

2022/04/12

平時から有事の備えを、情報の可視化必要

「NIKKEI LIVE」要旨

日本経済新聞社・日本経済研究センター医療改革研究会

2022/02/21

医療機関に政府・自治体のガバナンスを

ヘルスケア・トランスフォーメーションで体制再構築

日本経済新聞社・日本経済研究センター医療改革研究会