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米ブルッキングズ研究所と共同政策提言

「米国の「産業政策」−GMとクライスラーの救済措置」
ロバート・クランドール・ブルッキングス研究所上級フェロー


ロバート・クランドール・ブルッキングス研究所上級フェロー  
 この2年の歳月は世界の自動車メーカーにとって厳しい時期であった。トヨタ自動車やBMWのような優れた経営状態にある企業でさえ損失を計上し、株価は40%も下落した。米国自動車メーカーは、07−09年の不況期以前から競争力はなく、より一層深刻な状態だ。昨年、クライスラーとゼネラル・モータース(GM)の倒産見通しが強まったとき、米国政府は2社の事業継続のため、素早く財政支援に動き出した。しかしこの支援が2社を「救う」ことはなく、ともに破綻へと向かうことになってしまった。フォードは倒産を回避したが、大幅な損失にあえいでいる。

 米国政府のクライスラーとGMに対する数十億ドルに及ぶ資金投入は、長期的な競争力に何ら影響を与えることはなかった。デトロイトのビッグ3はいずれも同じ問題を抱えている。難しい労使関係であり、効率の良くない生産設備であり、消費者が求める車を造れない開発力だ。こうした問題は政府による資本注入や経営再建策によって解決できるような単純な話ではない。

 ビッグ3の市場シェアは1988年、米国内における軽トラック(SUV、ミニバン、ピックアップトラックを含む)と乗用車販売で74%に達していた。しかし昨年は48%まで落ち込んだのである。シェア低下は乗用車部門では、一層顕著である。71%から36%に落ち込んだ。米国政府が軽トラックの輸入車に25%の関税をかけているからこそ、軽トラック市場では、大きなシェアを保ち続けているのだ。08年の軽トラックのシェアはまだ62%を維持していた。しかし米国に進出する外国メーカーが最近、軽トラック市場を侵食しシェアを伸ばしている。ビッグ3が伝統的に高い収益性を誇ってきた事業も危機に直面している。

 米政府の救済措置とGMのリストラ策は同社の凋落を食い止めることには何ら役に立たない。GMは破綻再生後にも旧経営陣がとどまり、新しい魅力的なモデルを開発する能力を引き出すこともできていない。一方、米政府はGMの株式の過半数を保有し、長年開発に失敗しつづけてきた低燃費車を開発・生産するよう強く求めている。GMの社債保有者の多くは、自ら政府の救済措置を受けた大手銀行であり、破綻の際に債権放棄を迫られた。GMが新車開発を進めるために新たな社債を発行して資金を調達することは難しいだろう。

 クライスラーの救済は、少し異なる形で決着した。同社は、全米自動車労組(UAW)が大半の株式を保有することになった。同様に重要な点は、イタリアの自動車メーカー、フィアットがクライスラーの経営を主導することとクライスラー北米工場へ小型車の技術移転を行うことを前提に、株式20%を得たことだ。クライスラーの乗用車販売はほぼ消滅し、製品開発パイプラインが存在しないように思われる。

 フィアットは欧州で目覚しい復活を遂げたが、米国内での小型車製造販売を目論んだわけではない。消費者は、クライスラー製フィアットが米国製のホンダ、日産自動車やトヨタと対等に競い合えるとみていないだろう。フィアットといえども、UAWの力が強い五大湖周辺のクライスラー工場で経済性の高い生産ができると信じていない。クライスラー製フィアットはメキシコで生産されるかもしれないと囁かれている。

 このことは、政府救済で解決できない主要な問題を浮き彫りにしている。ビッグ3は、組合によって伝統的に従業員に高額の給与を支払い、低い労働生産性を受け入れてきた。日本、韓国、ドイツから進出した企業はいずれもテネシー、ケンタッキー、そしてアラバマ州のようなUAWの牙城から遠く離れて立地している。進出企業はデトロイトのライバル企業よりも低い生産コストを維持している。救済措置が、この構造を変えることはない。

 クライスラーとGMの破綻処理でUAWは新生した両社の株式を多く保有することになった。株式保有は両社を再建に導くインセンティブになる可能性はあるが、再建につながるとは言い切れない。現役の従業員は、再建によってあがる利益がOBに回ってしまうことを懸念しており、株式保有が有効に働く保証はない。

 要するに、米国政府の支援は、ビッグ3を長期的な衰退から救うことはないだろう。たとえ従業員が待遇の低下を受け入れ、労働生産性を多少なりとも上げることに合意したとしても、ビッグ3は市場シェアを落とし続けるだろう。実際、ビッグ3のシェアは落ち込みが続いており、加速してさえいる。破綻処理の仕組みを活用した政府の救済は、マクロ経済への悪影響を最小限にとどめ、ミシガン、イリノイ、オハイオといった古い産業地帯の急速な落ち込みをとりあえず防止するのが狙いだ。それはビッグ3の栄光を取り戻すといった信念に基づくものではない。

 政府の救済措置にもかかわらず、デトロイトの失業率は、現在、25%を超えている。政府はビッグ3の無駄な延命を図ろうとせず、デトロイトと五大湖周辺の他の都市が抱える問題(老朽化したインフラ、劣悪な教育環境など)に目を向け直すことが賢明だと思う。

失業率の推移"



※参考
米ブルッキングズ研究所(Brookings Institution)はワシントンDCに本部を置く非営利の民間研究機関で、1927年に設立されました。経済、社会保障、外交・安全保障などの分野における政策提言・議論において、全米レベルの高い評価を得ている研究機関です。

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