Discussion Paper 140 2013.10
農業保護はどの程度家計負担を増やしているか
−個票データを用いた主要6品目の影響推計−
猿山純夫・日本経済研究センター研究本部長兼主任研究員
、服部哲也・日本経済研究センター特任研究員/拓殖大学教授
、松岡秀明・日本経済研究センター研究本部副主任研究員
、落合勝昭・日本経済研究センター特任研究員
全文/Discussion Paper No.140
要 旨
TPP(環太平洋経済連携協定)参加をめぐっては、同協定に参加すれば農業生産が打撃を受ける一方、乗り遅れれば輸出産業が機会損失を被るといった生産者側への影響に注目する議論が多い。しかし、農産品の高関税による価格下支えは、食費負担の大きい低所得者層に相対的に大きな負担を強いている。本研究は、農業保護が消費者の所得分配の公平性に及ぼす影響を明らかにするものである。
コメ、小麦、牛肉、豚肉、乳製品、砂糖という主要6品目の家計負担を2004年の総務省『全国消費実態調査』の個票データを用いて検証した。計測にあたっては、農産物の直接消費分に加え、加工食品や外食などを経由した間接効果も産業連関表を利用して織り込んだ。その結果、(1)6品目の消費者負担は1人当たり月額約2000円、年換算では約24,000円になる、(2)高齢者世帯など低所得者層ほど負担が重い逆進性がある、(3)逆進性は現行消費税よりも大きい、(4)逆進性はコメにおいて最も顕著であり、負担額としてもコメが一番大きい、(5)牛肉はコメに次ぎ負担が大きいが、高所得者ほど負担が重い累進性がある、(6)直接消費分が7割強の効果を占める、(7)6品目の農業保護は消費者物価を1%強押し上げている――などが明らかになった。
公平性の観点からは、農業保護のあり方を価格支持から農家への直接補償へ転換すべきである。中でも、高齢の低所得者を中心にコメの自由化が大きな負担軽減に結びつく可能性がある。
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