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日本経済研究センター Japan Center Economic Research

最終更新日:2011年7月15日
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経済百葉箱 番外編<2011年度>

 「経済百葉箱」は当センター経済予測班による分析リポートです。このうち「番外編」は、主に新年度から研修を開始した企業・団体からの派遣研究生が、「第一弾」としてまとめたリポートです。4月からの「基礎研修」で身に付けた経済の知識を生かし、グループでの検討を重ねながら、日本が抱える課題に切り込んでいます。内容的には詰め切れていない部分もありますが、やや粗削りでも、社会の議論に一石を投じる意味で公表する次第です。研修制度ご紹介のページもぜひご覧下さい。
■経済百葉箱 ≪番外編・研修リポート(2011年度)≫について■日経センターの研修制度ご紹介はこちら
<掲載情報>
1.長寿大国と医療費抑制の両立を:「予防医療」の推進に向けて(7月8日)
2.英語力のビハインドが招く国際競争力の低下(7月11日)
3.少子化問題は肌目細かな「子ども人数別政策アプローチ」の採用を(7月12日)
4.少子化と若年層の投票率低下がもたらす高齢者向け政策バイアス(7月13日)
5.晩婚化・非婚化の背後に、より深刻な男性若年層の「諦婚化」あり(7月14日)
6.3年以内の早期離職率3割の衝撃:学生、企業双方に多大なコスト(7月15日)


3年以内の早期離職率3割の衝撃:学生、企業双方に多大なコスト
―就業教育の推進と『複線型新卒採用制度』の導入で満足度の高い就職の実現を

2011年7月15日 2011年度研究生

百葉箱

▼要旨▼
 日本の企業は新卒者を一括して採用する方式を長く続けている。学生、企業とも採用・就職活動に多くの時間・コストを割いているが、3年以内に3割が離職する。費やしたコストが埋没するだけでなく、終身雇用かつ継ぎ目のない履歴を重視する社会において、転職が満足いくものになるという保障はない。問題の所在は、就業に関する認識ギャップが、「就職後」に顕在化することにある。学生側は多くの知識を有しないまま企業を選び、企業側もとことん内情を伝えることなく、潜在能力の高い学生の確保を優先する。このため、新入社員は思い描いていた業務に従事できないケースが少なくない。「就職」ではなく、「就社」と評されるように、配属先に関する企業の裁量性が高いことも、ギャップ発生の一因である。こうした現状を踏まえ、インターンシップの充実などの「就業教育の推進」と、企業側での「複線型新卒採用制度の導入」を対策として提言する。実効性をあげることは容易ではないかもしれないが、地道に就業教育を充実させることが望ましい。また、最初から「雇用期間の定めのない」契約を結ぶのでなく、労使双方で解除可能な有期雇用契約を推進する必要性も高い。
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晩婚化・非婚化の背後に、より深刻な男性若年層の「諦婚化」あり
―就職氷河期世代に集中した「負の遺産」。労働市場の改革で更なる諦婚化を防げ

2011年7月14日 2011年度研究生

▼要旨▼
 晩婚・非婚化の問題を少子化との関連だけでなく、周辺・背後に潜む問題を踏まえて検討した。晩婚化は女性を中心に現れている。女性の社会進出や価値観の変化などの影響を受けているためだ。一方、非婚化はより男性に顕著。バブル崩壊や硬直的な労働市場のしわ寄せが、就職氷河期世代に集中したことで生じている。それら世代に多い非正規雇用者の賃金は低い上に、正規雇用への道が狭く、総じて年収が低い。女性が男性に求める年収条件を満たさない男性が増えている。その結果、男性側には諦婚化(結婚を諦める)とも言える現象が生じている。晩婚化・諦婚化の防止自体は政策目標にならないが、背後にある氷河期世代が抱える「負の遺産」は見過ごせない。同一労働同一賃金の促進、換言すれば「働きに応じた賃金」の徹底、既存の労働者の既得権益を薄めるような改革が必要である。未婚者の増加が、医療費の増大や若年層の投票率低下などの弊害をもたらしている可能性がある点にも留意したい。「出会い促進」は公的な介入より、民間の婚活業界の取り組み強化で解決すべきだ。
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少子化と若年層の投票率低下がもたらす高齢者向け政策バイアス
―政治と有権者のインタラクティブを通じ、若年層の投票率低下傾向に歯止めを

2011年7月13日 2011年度研究生

▼要旨▼
 世界最速の少子高齢化と若年層の投票率低下で、世代間のバランス・オブ・パワーが変化、高齢層の政治プレゼンスが近年高まっている。政治家が選挙での当選を目指すなら、高齢者に「優しい」政策を志向するのは至極合理的だ。高齢層は、年金など受益への関心が強い一方で、財政健全化など将来世代の負担となる問題に関心が薄いという調査結果がある。こうした諸条件が、財政再建を難しくしているとも考えられる。 この先、若年層の声はますます政治に届きにくくなる恐れがある。これに歯止めを掛けるには、若年層の投票率を引き上げる必要がある。幸いにも、若年層の政治への参加意識自体は維持ないし高まっている節がある。投票率の低下の背景には、政治不信と同時に、「政治は我々の関心事を取り扱ってくれない」といった、諦めがある。若年層が投票に前向きになるには、政策形成の段階から有権者と政治家が双方向に交流することが不可欠だ。そのための仕組みを公設する必要があろう。本稿では、有権者が広く参加可能なインタラクティブな制度設計について、提言したい。
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少子化問題は肌目細かな「子ども人数別政策アプローチ」の採用を
―子ども手当ては3人目からの支給とし、不妊治療、待機児童の解消、イクメン推進に財源を

2011年7月12日 2011年度研究生

▼要旨▼
 日本が抱える様々な構造問題の根源とも言える少子化問題は、一向に解決に向かう気配がない。鳴り物入りで導入された「子ども手当」も、恐らくは限定的な効果しか有せず、費用対効果でみて及第点は与えられまい。「子ども手当」は、金銭面での障害が少子化の背景であるとの考え方に立脚しているが、実態はより複雑である。確かに、3人目の子どもを持つかどうかの決断に際しては、家計の予算制約が影響している可能性が高い。もっとも、2人目ないし1人目については、経済上の理由が主たる理由ではなく、他の事由が支配的とみられる。であれば、「子ども手当」は主に3人目から支給するよう改革し、財源を確保する。その上で、1人目、2人目の子どもを持つことに対し障害となっている事由の除去ないし緩和策に財源を振り向ければよい。これが我々の主張する「子ども人数別政策アプローチ」である。実は、1人目については、不妊の問題が大きく、不妊治療の負担軽減策を進めるべきである。このほか、2人目に躊躇する事由としては、待機児童問題や家計での夫の育児協力のなさが原因となっていると推察される。保育所並びに保育士の供給増加をどのように進めていくか、育児負担の家計内でのバードン・シェアリングをどのように図っていくかが課題である。前者については、都市部の廃校の利用と保育士の待遇改善を、後者については「イクメン」の促進やワークライフ・バランスの推進を提言したい。
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英語力のビハインドが招く国際競争力の低下
―「早期」「集中と選択」「実用」に基づく英語教育改革を通じ、国民的英語コンプレックスからの脱却を

2011年7月11日 2011年度研究生

▼要旨▼
 グローバル化は避けては通れない。しかも、その進展のスピードは速く、潮流に乗り遅れることなく日本が存在感を維持していくためには、国際言語である英語力の向上が不可欠である。わが国は、広く全国民に対し、英語教育を施しているが、その費用対効果は低く、アジア諸国と比べても近年、見劣りしてきている。こうした中、幾つかの企業は「社内公用語」を打ち出し、学校教育を補完すべく従業員の語学力向上に乗り出すとともに、新卒市場では外国人留学生を積極的に採用する動きも見せている。従業員サイドでは急な必要に迫られ、学習に励んでいる。であれば、教育改革を通じ、「自然と」プラクティカルな英語力が身に付くようにすべきではないか。グローバル需要を取り込むという企業戦略の後押し、アジア拠点として海外企業を誘致する上でも英語力の向上が求められる。また、正確な情報を海外に発信していくことの重要性は、東日本大震災や原発問題で改めて再認識された。留意すべきは、全員がビジネス上必要なレベルの語学力を修得する必要はないことである。一生に数回の旅行に必要なトラベル会話があれば十分という国民が大多数でもある。画一かつ文法重視を排し、より早期、選択的かつプラクティカルな英語教育制度の構築に向け、改革を進める必要がある。
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長寿大国と医療費抑制の両立を:「予防医療」の推進に向けて
―メタボ検診ではなく、健康増進に向け個人の自主的な取組みを促す創意工夫が必要

2011年7月8日 2011年度研究生

▼要旨▼
 財政再建を進める上で、社会保障費の増大を如何に抑制していくかは、最重要課題の一つである。「団塊世代」の年金支給本格化が迫り、その先をみても、少子高齢化が進展する下で、社会保障費は増加の一途をたどることが確実視されている。我々は社会保障費のうち医療費を取り上げ、その抑制に向けて、「予防医療」の推進策を検討する。2008年に導入された所謂「メタボ検診」は、その実施が公務員、大企業に偏りつつ、普及率が高まってもいない。そもそもの検診の根拠に対する疑問のほか、どこか「他人事」意識が強いため、受診側で切迫感に欠ける。「予防治療」を促進していく上では、個々人のインセンティブに働きかけて、自主的な取組みを促進することが必要だ。健康に関する情宣活動を進めると同時に、金融や健康関連商品の分野で、創意工夫による商品開発を促していくことが重要である。また、掛け声だけでなくワークライフ・バランスを推進することも、健康増進には重要だと考える。社会保障費の増大の背後にある高齢化を財政面から負に捉えるのではなく、長寿社会を誇りつつ、安定した社会構築に向け、「より健康に長生きする」社会の構築を目指すべきであろう。
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