▼要旨▼
大阪の地盤沈下が叫ばれて久しい。実際、大阪は成長力の鈍さから経済規模で東京に大差をつけられ、高い失業率などがネックとなって人口も頭打ちになっている。若者に至ってはすでに人口減に転じており、少子高齢化の進行で大阪の低迷は一段と深刻化する恐れがある。他方で、大阪の停滞が招いた東京への一極集中も、住環境の悪化や災害リスクの増大といった問題を孕んでいる。日本経済の持続的発展のためにも大阪の再生は欠かせず、早期に「若者離れ」を食い止めて活力を取り戻す必要がある。大阪で若者の定住人口を拡大するためには、「雇用・街並み・治安」の改善が求められる。独自に実施した若者へのアンケート調査では、大阪に「行ってみたいが、住みたくない」との回答が大勢を占めたが、若者は特に重視する「雇用・街並み・治安」の項目で東京よりも大阪を低く評価していた。また、男性よりも女性のほうが大阪にネガティブなイメージを抱いていた点も興味深い。アンケートで明らかになった問題点を踏まえ、我々は大阪の活性化に向けて3つの提言をしたい。まずは「安心安全な町づくり」。行政による警察官の増員や地域コミュニティによる環境美化を組み合わせて住民や観光客の増加につなげたニューヨーク市の事例を参考にしたい。2つ目は「実は魅力的な大阪」といった情報発信力の強化だ。民間主導で大阪の知られざる魅力を伝え、特に女性のイメージ改善を狙いたい。3つ目が「おもてなし産業」を活性化して、若者の雇用の場を生むことだ。現状で十分に取り込めていないシニア層や外国人をターゲットにして、大阪の独自文化や関西連携を生かした集客策を練ることで、交流人口を増やし、さらには定住人口も拡大することが期待できる。大阪では当事者の危機意識がさほど強くない中で衰退が進んでいるようにも映るが、これは日本全体にも当てはまる現象だ。大阪が抱える課題の多くは、日本が背負う諸問題とも重なる。近隣地域との連携や独自文化・魅力を生かすといった大阪の活性化策は、日本の再生にも応用できるのではないか。
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日本はなぜ消費税増税に苦労するのか
―アンケート結果が浮き彫りにする政治対話の欠落―
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▼要旨▼
今回、独自に消費税率引き上げに関するアンケートを実施したところ、サラリーマンを中心とする30歳前後、60歳前後では過半数の賛成が得られたが、主婦は6割が反対であった。主婦の反対多数の背景には、情報を得るコミュニティが狭く、わが国の財政窮状に対する理解度が不足していることや、消費税増税による負担増を強調しがちなテレビの影響があるとみられる。30歳前後の若い世代は、財政に対する危機意識が強く、大多数が消費税増税を容認しているが、支払った税金が将来自分に還元されるのか不信感を抱いている。また、60歳前後は、政治に厳しい目を向けていることが改めて確認された。このアンケート結果が示唆する最大の問題点は、政治対話の欠落である。政治家は、国民、なかでも現状認識が甘い主婦や社会保障制度に対する不信感の強い若い世代に対し、きちんと財政の窮状や社会保障制度の将来ビジョンを説明すべきだ。若い世代や主婦ももっと選挙に行き、投票行動を通じて自分たちの主張を政策に反映させるべきだ。政治家と国民双方が努力して歩み寄らなければ、いつまでも国民不在の政治は是正されない。
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女性の労働意欲を蝕む「男の甲斐性」
―労働・社会保障改革を断行し、家庭内ワークシェアリングを実現せよ―
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▼要旨▼
巷では「女性のための〜」といった、女性に主眼を置いたキャッチフレーズが多く見られる。現実的に、我が国人口の半分以上を占めている女性を、労働力や消費者として取り込むことは理にかなうものである。しかし、女性は消費者としては定着しているが、労働力としてはどうか。1985年の男女雇用機会均等法の制定以降、我が国では「女性の社会進出」がもたらされ、実際に女性の労働力率は確実に増加している。既に人口減少社会となった我が国において、着実な進行が求められていることの一つである。しかし、問題は現時点において、女性労働者としているものの半数程は派遣社員などの非正規雇用労働者であることだ。なぜこうなってしまったのか。我々は女性労働を取り巻く要因を、ウチとソトの環境の両面から検証した。見えてきたものは、ソト社会は長時間労働や年功序列賃金に代表される「日本型雇用慣行」があり、働きづらい。ウチ社会には上方婚及び家計管理を妻自身が行うことで生活保障を得られるとする「男の甲斐性モデル」があり、働かなくてもよいという現実があった。一般論として働きづらいことだけが強調されがちであるが、ウチ的なものについても労働政策立案においては考慮すべきものであろう。こうした現状から、我々は、同一労働同一賃金及び累進課税強化を柱とする「労働市場改革」、第3号被保険制度を縮小し、財源を子育て世代へと振り分ける「社会保障改革」、両改革により夫婦が共に働き家事を行うとする新たな生活スタイル「家庭内ワークシェアリング」を提言する。政策をソトだけでなくウチに対しても作用させることが、既に成熟期である我が国の労働環境にとって有効なのではないだろうか。
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新製品普及の鍵は「機能の日常化」
― 製造業復活のためデジタル化による多様なサービスの提供を!−
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▼要旨▼
戦後の日本経済を支えてきた製造業。その製造業を牽引してきた電機産業と自動車産業であるが、近年は海外勢に押され、苦境に立たされている。我々は、製品の普及のメカニズムを考察することによって、今後の製造業復活のための手がかりを探った。
製品は、開発当初から普及するのではなく、既存製品から新製品へ一気に入れ替わるタイミングが存在する。ここではこのタイミングを爆発的普及と位置づけ、近年爆発的普及が見られたデジタルカメラ、デジタルオーディオプレイヤー、スマートフォンを取り上げ「爆発的普及のメカニズム」を明らかにした。その結果、爆発的普及には、「機能の日常化」「マイナス要因の除去」「女性層の取り込み」という3つの要因があることがわかった。以前は耐久消費財(カメラ、携帯音楽プレーヤー、携帯電話)に対する需要は耐久消費財そのものに対する需要だと考えられていた。しかし、デジタル/ネットワーク化によって物理的な制約が取り払われ、耐久消費財が多様なサービスを提供できるようになると、耐久消費財に対する需要だと思っていたものが、耐久消費財が提供するサービスに対する需要であったことが明らかになってきた。その結果、消費財(モノ)よりもそこで提供されるサービスの方が重要になりつつあり、単なる消費財(モノ)は売れなくなる。本稿の爆発的普及のメカニズムを有効活用し、既存製品やサービスにとらわれることなく、製品がどんなサービスを提供できるのか、といった視点から製品開発を行っていくことが重要である。そして、ユーザーの新規需要を掘り起こすことで、日本企業が爆発的普及を巻き起こし、復活していくことを期待したい。
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効率化させたインフラで世界の需要を取り込め
― 水ビジネスから考えるジャパン・インフラの方向性 ―
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▼要旨▼
近年、「インフラ輸出」をテーマとした報道を多く見かける。わが国は早期から国土の大半にインフラ網を整え、電力・ガス・通信・鉄道・道路、どの分野においてもよりよい技術開発と丁寧な管理運営を行ってきた。その結果、世界的に見ても優れたインフラシステムの構築に成功している。「インフラ輸出」とは、これらを成長著しい新興国等に売り込み、新しい市場を開拓するビジネスである。しかし、実際にインフラ輸出が成功した例は乏しい。本論では、具体的に水ビジネス・水道事業にスポットライトを当て、問題点及び解決策を探っていく。
将来予想される人口増加・経済成長等により、新興国を中心として水道システムへの需要増加が見込まれている。対してわが国は水関連事業においても世界的に高い技術と運営ノウハウを有しているが、思うように水道輸出が進んでいない。背景には、@各企業の担当分野が異なるため、浄水から配水・下水処理までの水道関連事業全てを請負うこと(一括受注)ができない点、A既に一括受注を可能とし、政府支援の下に海外進出を強めている他国の競合相手がいる点、B途上国の政変リスク等に耐えるための官民連携体制が不十分である点、等の課題がある。
一方、国内の水道事業を見ると、1960年代に造られた水道システムの老朽化が進み、事故が増加傾向にある。反面、政府・地方自治体の債務増加によって、設備更新のための十分な予算確保は今後一層難しくなるものと予想される。加えて団塊世代の退職によるノウハウ散逸や、小規模な地方事業者の破綻懸念等、様々な課題が存在しており、国内水道事業の継続にも疑問符がついている。
以上のインフラ輸出上の課題と国内事業継続性の懸念を包括的に解決する方法として、「国内全水道事業の統合化・民営化を行い、政府支援と民間企業連合による海外進出体制を構築する」ことを提言する。具体的には、@現在公営の水道局・下水道局を中心に民営化し、効率的な組織編制と経営の実現を通じて、運営予算節減と更新費用の調達を目指す。A海外市場における競合他社と対等な条件で入札競争に参加するため、各民間企業との連携を強化する。B民営化後の企業活動が利用者の福利に資するよう、第三者機関を設置して水道料金等を監視する。
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ライフプランから見える少子化対策
― 鍵は教育費負担。まず将来の負担を把握することが肝心 ―
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▼要旨▼
本稿では、子供を持つことによる負担がどの程度重いのか、どのような条件のもとでなら子供を持っても生涯所得で賄うことができるのか、具体的なライフプランを試算して確認した。得られた結果と、そこから示唆される少子化対策は以下のとおり。
標準的なサラリーマン世帯(妻は専業主婦)では、子ども(大学まで就学)を1人でも持つと先行きの家計の収支は大幅な赤字となる。ただし、妻がパートタイマーとして就業すれば、子どもを2人持っても何とか収支は黒字が確保できる。さらに、妻がパートタイマーとして就業し、奨学金の利用などによって大学での教育費を抑えることができれば、子どもを3人持っても収支は黒字が確保できる。以上の試算結果から、共働きを支援する保育制度改革や、教育費負担を軽減するための奨学金制度の拡充等が重要であることが示唆される。例えば、待機児童を減らすために、保育所設置等に係る規制緩和を促進するとか、子供を産む時点で将来の奨学金支給が確約される「予約奨学金制度」の導入や、第2子以降の減免率を高くするような「奨学金減免制度」の拡充などが考えられないか。また、そもそも結婚や出産を迎える前にライフプランを試算してみる機会を持つことも重要だ。将来の具体的な負担の重さが分かれば、対応策の検討や自家購入などの目標を立てることも可能となり、漠然とした不安は解消される。こうした国民の自助努力も少子化対策として有効だと思われる
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