▼要旨▼
2011年3月11日の東日本大震災での津波被害を受けて、岩手、宮城、福島の被災3県に全長約370kmの巨大防潮堤の建設計画が進んでいる。防潮堤には人命や資産を守る等のメリットがある一方、景観阻害や危機意識の低下による危険増加等のデメリットも考えられる。
宮城県気仙沼市は「海と生きる」を震災復興計画の副題に掲げており、漁業や観光で海とは切り離せない暮らしを送っている。今回、県下で最も海水浴客の多い大谷海岸を抱える本吉地区において、防潮堤に対する住民の心情を明らかにすべく、幸福度調査アンケートを実施した 。
アンケート結果を分析すると、巨大防潮堤の建設で「景観阻害」と「危険増加」を懸念する住民が多く、住民全体の幸福度は下がると認識されていることが判明した。これは、東日本大震災で住居を失った方も同様の見解であり、防潮堤自体で「命が守られる」よりも、「危険が増加」する存在と捉えている。一方、防潮堤建設で幸福度が上がる住民や、防潮堤で「命が守られる」と考える住民もいるが、その方々にとっても望ましい防潮堤の高さは7〜7.5mであり、本吉地区大谷海岸に建設予定の9.8mは下回る。また防潮堤が建設されることでの景観破壊費用は約1万2000円と、先行研究に比べ高いことも明らかになった。
防潮堤以外の代替策としては、避難道の建設を多くの住民は望んでおり、巨大防潮堤より低コストで建設は可能である。ただし、高潮等の住民が認識していないリスクを十分に考慮する必要はある。
住民は地域コミュニティーを重視しているにも関わらず、防潮堤をめぐる争いでコミュニティーの分断も起きている。説明責任を果たす等、防災行政の進め方に改善余地があると考える。
全文
、資料
IT技術×小口決済=金融立国日本―ビットコインは“天使のたまご”―
|
|
▼要旨▼
ビットコインは従来の小口決済手段とは異質な特徴を持つ仮想通貨のひとつであり、急速な流通拡大を通して、一般消費者の小口決済手段に大きな変化をもたらすと考えられる。通貨の歴史を遡ると、決済手段は技術革新を契機に変化してきた経緯がある。さらに、金融の中心地についても、技術革新による決済手段の変化に伴って変遷してきた。ビットコインの登場は、IT(情報技術)の発達という技術革新による小口決済手段の変化を象徴する出来事である。インターネット上のセキュリティー問題などと同様に、多くの問題点があるものの、一般消費者には、利便性の高い国際的な小口決済手段になる可能性を秘めており、今後の決済・金融に様々な可能性を示唆する「天使のたまご」と呼べる。国内外ともに決済の電子化が進み、日々新たな小口の決済サービスが登場しているが、国際的に展開されているものはごく少数である。今後、小口決済市場で指導的な地位を獲得し、カネと情報の中心地となる国家が、国際金融センターとしてのプレゼンスを高めると考えられる。日本はIT(情報技術)を中心とした技術的な基盤は備わっており、今こそ、長年の懸案である金融立国の地位を確立するチャンスではないか。IT基盤の小口決済市場で重要な地位を築くには、小口決済サービスの海外展開を推進するのが近道だ。それには日本の強みである情報通信インフラ輸出と決済サービスの一体輸出が有効である。そのために、過去に海外展開に失敗した事例を踏まえると、国際規格の取得を目標とした政官民の協働体制の構築も急務である。加えて、2020年の東京五輪に向けて訪日外国人旅行客に日本の決済サービスの利便性をアピールするため、現状の決済環境への不満を速やかに吸収・対応するほか、外貨対応やシステムの互換性などの利便性向上に努めるべきである。
全文
、資料
地方国立大学を民営化せよ―キャンパス・シニアの力でアクティブに―
|
|
▼要旨▼
現在、国立大学は86校存在するが、47の各都道府県に国立大学は必要か。毎年1兆円を超す運営費交付金を削減すべきといった財政健全化の観点や、トップ校に国費を重点配分すべきといった財政効率化の観点から、国立大学統廃合の議論は避けて通れないものと考える。このような状況下で、地方国立大学が地域の研究・教育拠点であり続けるためには、経営、財務、研究・教育の各方面で、国から自立したアクティブな大学に生まれ変わる必要がある。
そこで、アクティブな大学になる手段の一つとして、地方国立大学が持つ豊富な敷地に「キャンパス・シニア・コミュニティ」を創り、講義や施設を広く開放することにより、シニアの知と財を呼び込むビジネスモデルを提案する。具体的には、キャンパス・シニア・コミュニティを、大学、キャンパス・シニア、民間事業者の三位一体のメリット享受システムとし、大学はキャンパス・シニアの力を活用し、キャンパス・ベンチャーによる起業支援、地域産業・観光学部による地域活性、シニア開発型研究などの取組みを通じて、授業料・特許料の増収や地域経済への貢献、知名度の向上を図る。
また、キャンパス・シニア・コミュニティを実現するためには、地方国立大学の民営化が必要となる。財務面の検証を行ったところ、経営努力などにより収益性改善を見込む余地はあり、国が手放す純資産相当額は6年で回収できることから、民営化可能であることが確認できた。文部科学省など行政の抵抗は大きいものと思われるが、各大学における中長期的な経営戦略になり得るだけでなく、大学によるイノベーションや地方再生、高齢化社会といった日本が抱える大きな課題を解決する効果も期待できるため、地方国立大学は、キャンパス・シニアの力でアクティブな大学に生まれ変わるべきである。
全文
、資料
参議院は高いポテンシャルを活かせ―改革のカギは「権限縮小」と「若者の声」―
|
|
▼要旨▼
我が国における参議院の存在意義が明確でないことに加え、昨今の「ねじれ国会」による政治停滞の影響もあり、参議院に対する国民の不満が以前にも増して高まっている。
参議院に対する国民の信頼回復、満足度向上には参議院改革が不可避であり、我々は衆議院と差別化した議論を国会でたたかわせることが参議院の存在意義と考え、2つの改革案を考えた。
1つめは、国会審議における役割である。直近10年間の国会での法案審議を分析したところ、国会審議の場では目立った影響力を発揮していないものの、国会審議の外では大きな影響力を発揮しており、参議院は高い『ポテンシャル』を持っているとの結論に至った。しかし、国民の信頼感を得るためには、その『ポテンシャル』を審議の外ではなく、審議の中で発揮することが求められる。
そのためには、衆参両院の意見が不一致となった場合における法案成立の過程のハードルを引き下げることが必要である。ハードル引き下げにより政治停滞が回避できる一方、衆議院優越が強まり、参議院の影響力低下も懸念される。しかし、敢えて「権限縮小」することによって、国会審議における自由な意思表示、ひいては参議院の存在感向上と国民の信頼感向上に繋がることが期待できる。
2つめは、選挙制度である。憲法が参議院議員に長く安定的な任期を保障している実態を踏まえ、参議院が特に取り組むべき課題は「中長期的な課題について議論を深める」ことであると位置付けた。ただし、参議院がその役割を果たすためには、「代表の偏り」「世論の偏り」という2つのバイアスを乗り越えた選挙制度を設計しなければならない。
そのためには、「若者代表を確実に出す選挙制度の採用」及び「重点的に審議するテーマの選定」が必要である。これらを実現することにより、「若者の声」が確実に国会に届き、政策に対する世代間の議論が活発に行われ、国民の信頼感や満足度向上に繋がることが期待できる。
全文
、資料
東京「特区」でヒトづくり―ビジネス専門大学を設立せよ!―
|
|
▼要旨▼
アベノミクス「第三の矢」を実現するための一つの施策として、国家戦略特区の検討が進められている。第一弾として全国で6地域が指定されているが、中でも、日本経済への影響力を考えれば東京が果たすべき役割は大きいだろう。
東京は、経済規模の面では世界トップの都市である。しかし、海外からの直接投資が少なく、また、起業が活発でないという弱みを抱えており、その地位をいつまで維持できるかは疑問だ。現在、特区の枠組みも活用しながら、法人税の引き下げやエンジェル税制要件緩和などのメニューが検討されているが、対内投資や起業を促進するためには、人材育成こそが重要ではないか。
そこで、東京の特区メニューを補完する施策として、「ビジネスリーダー」と「起業家」の育成に特化した大学の設置を提言する。前者は、グローバルな人材を育成し、その人材を外資系企業や日本のグローバル企業へ輩出することで、対内投資を呼び込むと同時に日本企業の国際競争力強化を目指す。後者は、起業のマインドや知識を持つ人材を育てることで、新たな産業の創出を図るものだ。
設置する大学のカリキュラムには、実務家による実践的講義や外国語による講義、企業への派遣研修などを多く盛り込み、卒業後に即戦力となる人材を育成する。また、海外から留学生を呼び込み、卒業後には日本で就業するよう導くために、日本語や日本の企業文化に関する教育にも重点的に取り組む。
留学生も含めた優秀な人材を広く集めるためには、運営形態は国立大学とするのが望ましい。国立大学への国からの補助金は年々削減されているが、ビジネスの分野に絞ったスリムな学科構成や、協力企業からの講師派遣、大学発ベンチャーへの投資などによって、運営費用は賄えるだろう。
企業への学生の派遣や企業からの講師派遣を通じて協力企業とのWin-Winな関係を構築し、大学を中心にした好循環を生みだすことで、日本の経済成長へとつなげていけるのではないか。
全文
、資料
▼要旨▼
日本の人口減少と高齢人口の増加は今後ますます進行していく。特に東京を初めとした都市部での高齢人口の大幅な増加が見込まれ、それに伴う要支援者・要介護者の急激な増加が懸念される。しかし、介護施設の不足はすでに深刻化している。東京都では特別養護老人ホーム(以下特養)に対して4万超の入居待機者がいる。
介護サービスの担い手となる東京都や社会福祉法人は「地域包括ケアシステム」を軸に、東京都23区・26市・5町・8村の相互協力で介護待機者の解消等を検討しているが、介護待機者はここ数年間ほとんど減少していない厳しい状況が続いている。
こうした状況下で、介護待機者の解消に新たな策を打ち出した区がある。杉並区は、地方の自治体と連携し、地方に特養を建設し、そこに区内の高齢者の域外居住を推進することを検討している。この「地方連携型特養」は、都市部で共通する悩みである用地不足や地価の高さのために、特養の新設が困難であるという、現状の課題を打開する策となりうる。さらには、歳出、歳入、そして地方自治体に新たな便益をもたらしうるため、関係者へのヒアリングを含め「地方連携型特養」の可能性について検証を行った。
検証の結果、我々は、「地域包括ケアシステム」と「地方連携型特養」の併用策を推奨したい。この併用策を推進することが都市部の介護待機者解消のための1つの解となりうるとの結論に至ったからである。また、併用策を進めるにあたり必要となると考えた施設間の連携や制度改正についても言及する。要介護者の地方移住を進めるために「入居の整理」等を提案したい。さらに、移住を進める自治体間の連携で障害となる、「住所地特例制度」をはじめとする制度改正についても提言する。
全文
、資料