2014.11 金融研究
地域金融の今後
2014年度金融研究班報告A
2014年度前期の金融研究リポートでは、人口減少に立ち向かう地域金融機関を取り上げる。地元企業の海外進出に伴う資金需要の落ち込みと、今後地方を中心に急速に進む人口の減少は、地域金融機関にビジネスモデルの転換を迫っている。足元では超低金利が長期化し、地方銀行は住宅ローンを含め、地元県外での貸し出しを増やしている。住宅ローン市場ではすでに多くの銀行で採算割れとなっている可能性も観察される。
厳しい競争の背景に何があるのか。競争に打ち勝つために何が必要なのか。人口減少が住宅需要や各都道府県内の預金、貸し出しに及ぼす影響についても検証する。
金融研究班: 左三川(笛田)郁子・北松 円香・西村 敏・関口 達仁・針生 直樹
<監修>金融研究班主査:岩田 一政 人口減少時代に突入した日本で、地域金融機関がビジネスモデルの転換を迫られている。法人向けの貸出鈍化に加え、安定収益源であったはずの住宅ローン市場でも競争が激化している。人口見通しを踏まえると、今後も資金需要の大幅な回復は見込みにくい。金融インフラの担い手としての役割を果たし続けるためには、適正な採算管理に加え、ファンドを通じた地域への資金供給、都道府県域を越えた連携・統合など、経営戦略の大胆な見直しも必要である。
〈要旨〉
○金融緩和による低金利と人口動態の変化に伴う資金需要の鈍化が、地銀をはじめとした地域金融機関の預貸金利ざやを減少させ、収益を圧迫している。域外貸出など預金・貸し出しの拡大に向けた各行の取り組みが、より競争を激化させ収益の悪化を招いている面もある。
○資金需要不足を補おうと、地銀による都道府県域を越えた経営統合や協調融資が相次ぐ。間接金融にとどまらず、ファンドを通じて6次産業など新たな分野に資金供給する動きもある。
○生産年齢人口の減少は、中長期的には金融機関の預金・貸出残高を縮小させる。地域の経済成長率や人口の見通しを考慮すると、2025年度には13年度比で7割の地銀で貸出残高が減少する可能性がある。
○多くの地銀は住宅ローンを安定的な収益源とみなし、残高を積極的に増やしてきた。だが、14年4月の消費税増税により住宅着工戸数は落ち込み、資金需要の回復は鈍い。金利や付帯サービスの競争が激しく、当初10年間固定金利選択型住宅ローンの一部は採算割れの可能性がある。固定費の圧縮が限界に近づく中で、持続的なビジネスモデル構築のためにはマクロの金融環境や顧客属性に応じた金利設定などの採算管理がカギを握る。
○地銀の今後の事業環境には、ゆうちょ銀行、JAバンクの動きも大きな影響を与える。民間大手並みの資金力を持つゆうちょ銀が融資業務に参入すれば、住宅ローン市場などにおける競争がさらに激しくなりかねない。インフラの維持・更新費に対する民間との協調融資など、民間金融機関の活力をそがない形での融資業務参入を期待したい。農協の現状は本来の協同組合組織から大きくかけ離れており、今回の改革案によりどこまで是正されるのかが焦点となる。
金融研究班:菊池 紘平
<監修>金融研究班主査:岩田 一政、総括:左三川(笛田)郁子 日本創成会議は5月、2040年までに全国の約半数の自治体が消滅する可能性があるとの試算結果を発表した。金融機関にとっては、人口減少により住宅ローン需要が低迷することは経営戦略を左右する問題となり得る。本稿では、将来の住宅ローン市場の動向を見通す上で不可欠な住宅着工戸数の将来推計を行い、人口動態の変化が都道府県別の住宅着工戸数に与える影響を定量的に検証する。また、住宅ローン市場の安定的な成長のカギを握る中古住宅市場に関する最近の動きについても概観する。
〈要旨〉
○都道府県別の生産年齢人口・住宅ストックに関する時系列データを用いてパネル分析を実施した結果、総人口に占める(15〜64歳までの)生産年齢人口比率の低下は、有意に住宅着工戸数の減少をもたらしていることが確認された。
○生産年齢人口を用いて住宅着工戸数の将来推計を実施したところ、19〜23年には全国平均で現在(13年度実績)の7割程度まで減少する見込みとなり、16の都道府県では現在の半分以下にまで落ち込む結果が得られた。
○中古住宅・リフォーム市場活性化のための取り組みが官・民の両面から進められており、空き家活用を目的とした試みも増加しつつあるが、住宅着工戸数の減少を埋め合わせるのに十分と言える水準ではなく、今後も中長期的な視座に立った施策が求められている。
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