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2015.03 金融研究

長期停滞下での金融政策
2014年度金融研究班報告C

 サマーズ元米財務長官らが提起し議論を呼んでいる「長期停滞論」。長期の均衡金利(自然利子率)が大幅なマイナス水準にあると、金融政策は効果を持たない可能性がある。日本がとり得る政策は他にあるのだろうか。量的・質的金融緩和が長期化すると、バブル発生のリスクが高まる。金融システム全体の安定を図る「マクロ・プルーデンス政策」や規制・監督体制について検討する。


 更新履歴 
・「≪日経センター金融研究説明会≫長期停滞下での金融政策」の説明会資料を掲載しました (2015/3/11)NEW!

・以下のリポートを公表しました(2015/03/10)NEW!
   トピック1:ゼロ金利の下で金融政策は有効だったか―自然利子率低下で、引き締め的な状況が続いていた可能性―
   トピック2:量的・質的金融緩和と金融システムの安定―資産バブルに備えてマクロ・プルーデンス政策の準備を急げ―

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【参考情報】2014年度金融研究報告シリーズ
「地域金融の今後」(14/11/28公表)
「量的・質的金融緩和政策、導入からまもなく2年」(14/11/28公表)


トピック1: ゼロ金利の下で金融政策は有効だったか―自然利子率低下で、引き締め的な状況が続いていた可能性―
【参考資料】 長期停滞論に関する最新の議論


金融研究班:岩田 一政 ・左三川(笛田) 郁子・菊池 紘平・針生 直樹

 サマーズ元米財務長官が提起した「セキュラー・スタグネーション(長期停滞)」の議論が世界中で注目を集めている。主要国はリーマン・ショックから6年経過した今なお、グローバル危機の後遺症に悩まされているからである。日本はバブル崩壊後、四半世紀にわたり長期停滞に苦しんできた。サマーズは長期停滞の原因のひとつに自然利子率の低下を挙げているが、日本についても当てはまるのか。本論では、金利の本来あるべき水準である「自然利子率」の計測を試みるとともに、名目金利がゼロ以下にはならないという「非負制約」の下での非伝統的金融政策が実体経済に有効であるかを考察し、超高齢社会となった日本がデフレと長期停滞から脱却するための糸口を探る。

〈要旨〉
○リーマン・ショックの後遺症からなかなか立ち直れなかった欧米で、セキュラー・スタグネーション(長期停滞)の議論が活発になっている。バブル崩壊から四半世紀にわたり停滞に苦しんできた日本でも、サマーズ元米財務長官の長期停滞論を検証する動きが広がっている。
○サマーズは、長期停滞の背景に自然利子率の大幅な低下があると主張する。自然利子率とは、「本来あるべき金利の水準」といえる。市場で観察される実質金利(名目金利から期待インフレ率を引いたもの)が自然利子率を下回れば金融緩和的な環境が作り出されるが、名目金利がゼロ下限に到達すると、金融政策で実質金利を引き下げることは困難になる。
○いくつかの手法で日本の自然利子率を計測した結果、97年の金融危機以降、自然利子率はマイナスであったことを確認した。この間、実質金利が下がることはなく、金融が引き締め的であったことが示された。日銀は量的・質的金融緩和(QQE)の導入でようやく、実質金利を自然利子率より低くすることに成功した。しかし、自然利子率がマイナスのまま期待インフレ率が下がれば、日本は再びデフレに陥りかねない。
○自然利子率低下の要因としてサマーズは、資金調達を伴う投資需要の減少や人口増加率の低下など6つの点を挙げている。日本でも、企業の設備投資がキャッシュフローの範囲内にとどまっているうえに、人口はすでに減少を始めている。
○足元の緩和的な環境は、短期的にはデフレ脱却に有効だが、膨大な政府債務を抱える日本では、公共投資による需要喚起ではなく、税制・規制改革や女性・外国人の活用など雇用慣行・制度の見直しを含む構造改革を推し進めることで、自然利子率を高めていく必要がある。超高齢社会の日本が「超長期停滞国」となることだけは避けなければならない。




トピック2:量的・質的金融緩和と金融システムの安定―資産バブルに備えてマクロ・プルーデンス政策の準備を急げ―


金融研究班:岩田 一政 ・左三川(笛田) 郁子 ・西村 敏・関口 達仁・北松 円香

 世界金融危機以降、個別金融機関の健全性確保という従来の「ミクロ・プルーデンス」の視点から、金融システム全体の安定性確保という「マクロ・プルーデンス」の視点による金融規制が重視されている。世界的な金融緩和の流れは、資産価格バブルの発生と崩壊を招くおそれがある。金融ショックが発生した時に、金融政策とマクロ・プルーデンス政策をどのように組み合わせ、発動するのか。当局があらかじめコミットし、市場との認識を共有しておく必要がある。

〈要旨〉
○世界的な金融緩和により金利は低下し、マイナス金利を採用する国も続出した。日本でも中期債でマイナス圏を経験。タームプレミアムは極度に圧縮され、資産バブルが懸念される。
○英国ではイングランド銀行を規制システムの中心とする新たな金融規制体制が発足。複雑化した金融システムからリテール預金を保護する目的で「リテール・リングフェンス」を導入。損失吸収力の強化を図るなど、独自の規制が整備されている。
○米国はバーゼルVと歩調を合わせつつも、より厳格な規制を独自に採用している。金融規制が強化される中で、米国で活動する外国銀行(FBO)に米国基準が適用されると、米国内で営業する3メガバンクグループなど邦銀への影響(資本の積み増しなど)も予想される。
○バーゼル銀行監督委員会では、危機の発生を事前に予測・防止するために活用する「早期警戒指標」や、リスク評価の適切性・比較可能性の向上に関する議論が進んでいる。
○グローバルなシステム上重要な銀行(G−SIBs)に対し損失吸収力と資本再構築力の充実を求めるTLAC(Total Loss Absorbing Capacity)は15年秋のG20首脳サミットで最終決定する見通し。日本の3メガグループにとって、追加的な資本調達が必要になる可能性もある。
○従来の銀行システム外での信用仲介を意味する「シャドー・バンキング」が再び拡大している。規制の抜け穴として拡大すると金融システムの不安定要因となりかねないだけに、マクロ・プルーデンスの視点からも規模などの正確な把握が重要である。
○日本では金融規制や監督で金融システム全体の安定を図るマクロ・プルーデンスの体制整備が遅れている。追加的な緩和によるバブル発生のリスクに備えた体制整備が急がれる。


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量的・質的金融緩和と金融システムの安定―資産バブルに備えてマクロ・プルーデンス政策の準備を急げ―量的・質的金融緩和と金融システムの安定―資産バブルに備えてマクロ・プルーデンス政策の準備を急げ―JCER NET メンバー限定

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