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2015.12 産業ピックアップ

内需足踏みを円安でしのぐ−医療介護は事業環境厳しく

 日本経済研究センターでは、委託研修制度の一環として産業調査班を設け、産業レベルからの景気判断や経済分析に取り組んでいます。いくつかの業種をピックアップ、景気の断面を探ります。



 内需は足踏み、海外は中国や資源国が不振と環境は厳しい。しかし、2015年度は全体として増益を確保しそうだ。逆風を和らげているのは円安。自動車は北米好調と為替効果で増益を確保、石油化学も輸出が堅調だ。円安は訪日中国人の爆買いも助けている。輸入原料の値上がりに苦しんだ紙パは価格転嫁で増益見通し。電子部品はスマホの多機能化に対応した部品供給増で上り調子だ。半面、中国不振で建設機械などの一般機械は苦しい。

 医療や介護は高齢化で利用者が増えるが、社会保障費の圧縮で報酬が削り込まれ、事業者は収益確保に苦しむ。介護の人手不足やそれを背景にした介護離職の解消は容易ではない。環太平洋経済連携協定(TPP)合意で構造改革が必要な農業は、農地集約に手間取り収益向上への展望が開けない。


 更新履歴 

・2016/1/15  「グローバル経常利益」で読む企業収益掲載 New!

・2015/12/22 各分析リポート(農業〜観光)掲載以下のリポートを公表しました(2016/1/15 一般公開)
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産業ピックアップ リポート


概要   産業調査班
農業: 高齢、零細解消できず――6次化は他業種との連携から田中啓亮(千葉興業銀行より派遣)
農業の行き詰まりを象徴しているのがコメだ。66歳の高齢者が零細な農地で年間50万円ばかりの所得を稼ぐのが、平均的なコメ農家の姿である。農地の集約が進んでも、圃場(ほじょう)の分散が、効率性向上を阻む。閉塞を打ち破る1つの選択肢が6次産業化だ。しかし、自前での6次化はしばしば壁に突き当たる。流通・加工業者のノウハウを生かす連携型の6次化からスタートすべきだ。
石油化学: 原油安・円安で収益伸びる――自動車向け素材に商機河井信典(四国銀行より派遣)
石油化学の原料であるナフサが原油安で値下がり、大手各社の収益が好転している。国内需要は冴えないが、円安で輸出が増加、売上高も伸びている。特に塩化ビニル樹脂は、中国産に比べて価格面で優位に立ち、インフラ需要が拡大するインド向け輸出が増えた。成長市場として狙うは自動車周辺市場だ。低燃費タイヤ、リチウム電池、炭素繊維強化プラスチックなどに向けた素材供給の商機が膨らんでいる。
紙パルプ: 価格転嫁が浸透、増益へ――海外と電力に活路求める内山翔(東日本銀行より派遣)
製紙は原料の7割を輸入に頼る。14年度は円安によるコスト増が先行したが、印刷用紙などへの価格転嫁が浸透した15年度は増益の見込み。国内の紙需要が低調な中、活路を求めるのは海外と電力だ。高齢化が進む東南アジアで、大人用紙おむつなどの増産準備を進めるほか、国内では自由化が進む電力市場で売電による収益確保を目指す。
一般機械: 「中国」・「資源」が逆風に――期待膨らむ航空機向け打田匡人(北海道銀行より派遣)
機械メーカーが逆風を受けている。1つは中国の景気減速だ。不動産投資の縮小で建設機械の売り上げは急減、スマホ普及の一巡で工作機械の受注も振るわない。資源安も痛手だ。鉱山・エネルギー向けの開発が止まり、資源国向けの建機販売が鈍っている。期待が膨らむのは航空機向けだ。業界団体は向こう20年で運航機数の倍増を見込む。恩恵は工作機械等の関連設備を提供する機械メーカーにも及びそうだ。
電子部品: 中国減速でもスマホ用伸びる――自動車・住宅向けで成長期す原政樹(横浜銀行より派遣)
スマホの普及が一巡、中国では携帯電話生産が減少しているが、日本の部品メーカーは好調だ。画面の圧力感知、動画撮影、ウエアラブル端末との連携など、スマホに求める機能がどんどん増え、高機能部品の搭載が増えている。スマホに続く成長分野として狙うのは自動車だ。自動運転はクルマとネット、交通システムとの間で膨大な通信需要を生み出す。あらゆるモノがネットにつながるIoTも市場拡大の好機だ。
自動車: 海外販売と円安で増益維持――国内は持ち直しの兆し篠崎智明(足利銀行より派遣)
大手各社の業績をリードしているのは海外だ。景気が着実に回復する米国での販売が伸びているほか、変調を来している中国市場でも日系メーカーは健闘。国内は軽自動車税の増税で打撃を受けた軽自動車がようやく持ち直しの兆しを見せ始めた。足元の増益には円安も一役買っており、為替が安定すれば、力点を置く海外市場により業績に明暗が出る可能性もある。
医療: 収益確保に苦しむ医療機関――運営主体で収益力に格差山田浩司(筑波銀行より派遣)
2016年度の診療報酬改定は、社会保障費抑制のため全体ではマイナス改定となった。ただ、削減の大半は薬価で、本体(診察料)は引き上げた。前回14年度の改定では、消費税に比べ報酬引き上げが抑え込まれ、収益確保に苦しむ医療機関が増えたことに配慮したものだ。ただ、医療法人は経費削減で黒字を確保したのに対し、公立病院は赤字が拡大と、運営主体により収益力の格差が目立つ。
介護: 遠い「介護離職ゼロ」――施設増でも介護職員足りず
今井亮平(青森銀行より派遣)
身内の介護で仕事をやめる介護離職。それをゼロにする目標を安倍政権が「新3本の矢」の1つとして掲げた。離職の背後にあるのは、介護資源、中でも人手の不足だ。職員を確保しようとすれば、賃金引き上げが必要になる。しかし、政府は財政難から事業者が受け取る介護報酬を引き下げている。事業者は賃金上昇と報酬減少の板挟みだ。施設を増やすだけでは、離職ゼロの達成は遠い。
観光: 「爆買い」は為替次第の面も――新幹線開業、ブームは1年折井聡(八十二銀行より派遣)
2015年の流行語大賞にもなった「爆買い」。訪日中国人1人が使う金額は3年間で8割も増えた。対人民元で5割下落した円相場が中国人の買い物意欲に火を付けた可能性が大きい。爆買いは為替次第とも言える。持続性が問われるのは新幹線効果も同じだ。3月には北海道新幹線が開業する。11年の九州開業時のブームはほぼ1年間。開業を地域振興に結び付けられるか、本当の勝負は2年目からだ。
「グローバル経常利益」で読む企業収益――製造業、稼ぎの4割りは海外で 国内足踏みでも最高益高野哲彰・篠崎智明・原政樹
日本企業が稼ぐ利益はいくらか。これまでのマクロ統計が答えにくかったのがこの問いだ。財務省の「法人企業統計」は単体決算が対象で、海外の現地法人が稼ぐ利益はつかめない。そこで、同統計と海外事業活動基本調査を用い「グローバル経常利益」を算出した。同利益をみると、(1)製造業では利益の4割近くを海外で稼ぐ、(2)足元の利益はリーマン・ショック前(2007年度)を上回り最高益に、(3)業種別にみると輸送機械では海外比率が6割に達する――などがわかる。13年以降の円安は円建ての海外利益や配当を高めている。円安に助けられている格好だが、為替変動が収益に直結する不安定性もあることには注意が必要だ。
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