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中国・アジアウォッチ シリーズ企画「昇龍は復活するか」~蔡・台湾政権の課題と日本の役割 (第1回)

不振続く台湾経済~脱却の道は「イノベーション」にあり

湯浅 健司
  首席研究員兼中国研究室長

2016/09/15

 かつては韓国、シンガポール、香港と並び「アジアの四小龍」と呼ばれた台湾が経済不振に苦しんでいる。実質成長率は今年の第1四半期まで3期連続のマイナス。4~6月期にようやくプラスに転じたが、通年では1%前後の伸びに止まると見られる。中国に多くを依存する経済構造、下請け体質から脱却できない産業界、急速に進む少子高齢化など、不振の要因は様々だ。5月に就任した蔡英文総統は経済の建て直しを急ぐ姿勢を全面に打ち出し、自立可能な産業構造の構築とともに、日本などとの連携に期待をかける。本稿では現地での有識者や日系企業などのインタビューをもとに、4回に分けて、台湾の新政権が抱える課題を探るとともに、経済復活を目指す台湾と日本の企業連携の重要性を検証する。

台湾の経済成長率と輸出の伸び率の推移

【第1回のポイント】

  1. 2010年に2ケタ成長をとげた台湾経済は、その後、輸出の減速などにより急速に落ち込み、2015年にはマイナス成長を記録した。今年半ば以降は輸出に若干の回復傾向が見られるが、中国人観光客の減少もあって、経済の先行きは楽観できない。
  2. 経済不振の原因は過度のIT産業への依存、過度の中国への依存などの産業構造にある。米アップルの製品の売れ行き次第で経済が大きく左右されるという体質から脱却できていない。中国本土のIT業界では台湾企業の強力なライバルが台頭しつつあり、今後、中国市場から台湾勢が排除されるリスクがある。急速な少子高齢化も社会の活力を奪っており、台湾内部では閉塞感が高まっている。
  3. 台湾復活を目指し登場した蔡英文・民進党政権は、新たな経済政策として重点産業の研究開発力を高める「五大イノベーション研究開発計画」や東南アジア市場の開拓に取り組む「新南向政策」を打ち出した。いずれも日本や欧米企業との連携を期待している。日本企業にとって、台湾の経済振興策は新たなビジネスチャンスをもたらす可能性がある。

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