北朝鮮の金正男氏がマレーシアで殺害された事件で、両国政府は遺体を北朝鮮に引き渡すことなどで合意、北朝鮮に足止めされていたマレーシア国民も帰国した。これにより、世界の注目を集め、両国の非難合戦に発展した事件の真相解明は事実上、困難になったと見られている。外交関係上は交渉のヤマ場を越えた格好だが、事件は両国関係に大きなしこりを残す結果となった。金正恩政権はマレーシアを経済・技術協力の重要拠点と位置づけていただけに、対外戦略上も大きな打撃となる。
【(中)のポイント】
- 北朝鮮にとってマレーシアは発展途上国同士の経済・技術協力である「南南協力」の戦略上、重要なパートナー国だった。政権交代期は取引が低迷したが、金正恩政権2年目の13年から貿易が徐々に回復してきていた。
- 北朝鮮国籍者へのノービザ渡航を認めていたマレーシアは北朝鮮にとって、単なる貿易相手ではなかった。外貨獲得のための労務輸出などが行われていたほか、非合法の工作を含め多角的な活動が展開されていた。
- 両国は外交交渉を通じて一応の合意に達したが、ビザなし渡航を再開し、以前のような関係を取り戻すのは容易ではなさそうだ。事件によって北朝鮮が受けたダメージは大きい。
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シリーズ「北朝鮮と東南アジア」
・【上】揺れる「非同盟」の外交と経済関係――「南南協力」掲げるも制裁で貿易減少へ (李燦雨)
・【下】制裁の実効性に影響するASEAN諸国の対応――核・ミサイル問題重視も、関係は維持 (李燦雨、伊集院敦)
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