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2017年度の金融研究班は、5年間続いた日本銀行の量的・質的金融緩和(QQE)政策を振り返り、QQEで何が変わり、何が変わらなかったかを検証した。日銀の黒田東彦総裁が言うように、日本は「物価が持続的に下落する意味でのデフレではなくなった」。しかし、QQEで目指した物価安定目標には届かなかった。QQEの開始当初、日銀は物価安定目標の2%を2年で実現すると宣言していたが、QQEにマイナス金利を付けても、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を付けてもなお、2%までには距離がある。
海外に目を転じると、17年10月からバランスシートの縮小を始めた米連邦準備理事会(FRB)に続いて、欧州中央銀行(ECB)も緩和縮小を進める姿勢を見せている。金融政策を正常化したいとの思いは中央銀行に共通するのだろう。
日銀が5年間、大量の国債を買い続けたことで、日銀のバランスシートは今や日本のGDPと肩を並べるほどに拡大した。国債の保有残高で見ても、保有割合で見ても突出する中で、日銀は長短金利のコントロールに自信を強めている。YCCの下で日銀が誘導目標とする長期金利はゼロ%近傍で安定し、懸念されていた国債買い入れの限界も遠のいた。
だが今後、日銀が出口に向かうと状況は一変する。日銀が逆ざやに陥り、財政コストが発生するからである。しかも、金利の引き上げとバランスシートの縮小という「複合的金融引き締め」の効果は未知数である。国債とともに買い続けてきた、株価指数連動型投資信託(ETF)や不動産投資信託(J-REIT)などのリスク性資産を、日銀は将来、どうやってバランスシートから切り離すのか。
本報告書では、日銀が金融正常化の過程で抱えるジレンマや政策課題について検討した。日銀の金融政策と政府の国債管理政策や財政政策との間で足並みが揃わなくなるとき、中央銀行の独立性の問題が再び湧き上がる。
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