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経済百葉箱

経済百葉箱 番外編<2021年度>―コロナ禍の課題、「解決策」を探る―

 

2021/07/12

 2021年度研究生

 「経済百葉箱」は当センター経済予測班による分析リポートです。このうち「番外編」は、新年度から研修を開始した企業・団体からの派遣研究生が、「第一弾」としてまとめたリポートです。
 今年度は3つの班に分かれて、コロナ禍で浮き彫りになった様々な課題についての「解決策」を検討しました。
 新型コロナ患者の病院受け入れでは、大阪など一部地域で病床のひっ迫が生じました。1つ目の班は、米国や英国、日本の長野県松本医療圏での病床確保に向けた取り組み事例を振り返り、今後も生じうる感染症拡大等の有事に備え、地域の病床計画を策定するにあたり、まず各病院の医療機能を「見える化」すること等を提言しています。
 また日本のワクチン接種率は、他の主要先進国と比べて、大きく出遅れました。ワクチン調達不足の問題が再浮上するなか、2つ目の班は、「21年11月までに希望者全員への接種完了」という政府目標の達成は困難との見通しを示し、接種ペース加速のために「オンライン予診」を活用した効率化を提案しています。
 3つ目の班は、コロナ禍の政策対応の1つである実質無利子・無担保融資の弊害に着目しました。飲食・宿泊といった中小サービス業では「息切れ倒産」のリスクが高まっていると指摘、民間金融機関は企業に既存の経営資源の有効活用を促す提案型支援へ転換し、一律支援から脱却する必要があると提言しています。
 内容的には粗削りな面も残りますが、社会の議論に一石を投じる意味で公表する次第です。

■医療体制を確保するには 「医療機能、病院間で見える化を―ひっ迫時の医療体制確保へ布石打て―」

▼要旨▼

  • 我が国では全病床に占める新型コロナ患者受け入れ病床の割合が0.9%と少なく、欧米諸国に比べ感染者が少なかったにもかかわらず病床のひっ迫が生じた。
  • 米国州知事のような緊急措置権限が無く病床確保が要請ベースにとどまる中、補助金も目標の病床確保には不足だった。
  • 感染症に対する病床計画策定には、隔離機能の有無など患者の受け入れ可否を左右する事項を平時から病院間で「見える化」する体制が必要だ。長野県松本市近郊の「松本医療圏」のように、平時からの情報共有が早期の医療体制確保に結びつく例もあった。

■ワクチン接種を加速するには 「新型コロナワクチン、調達不足で政府の接種目標未達に―オンライン予診の積極的活用を―」

▼要旨▼

  • 日本のワクチン接種が大きく出遅れた背景には、ワクチン調達の遅れがあった。また、足元で政府は21年7-9月期に国として確保できる米ファイザー製のワクチンの輸入量が3割減少(21年4-6月期対比)するとの見通しを示しており、ワクチン調達不足の問題が再び顕在化しつつある。
  • ワクチン調達不足により、政府が掲げる「21年11月までに希望者全員への接種完了」という目標は達成できない可能性が高い。21年7-9月期に失われたワクチン接種機会の分も10月から11月の間に「挽回接種」をし、希望者にいち早く接種機会を提供することが必要だ。
  • 日本では医師法の定めによりワクチン接種に医師の予診が必要であり、予診を担う医師の不足が接種ペース加速の制約になる恐れがある。10月以降に医師の数を急激に増やすことは現実的ではないため、医師が簡単に予診を担えるようにし、医師の対応効率を向上させ接種回数を増やす必要がある。医療体制に過度の負担を強いることなく、迅速な接種を維持・加速できる仕組み作りが重要だ。
  • 医師の対応効率を上げるには、医師以外にも予診を認めるか、医師の予診を効率化するほかない。前者は法制度の枠組みを変更する必要があり、ハードルが高い。一方、予診の効率化は「オンライン予診」の仕組みを活用することで実現できる可能性がある。
  • オンライン予診の課題は利用が普及していないことである。この原因として、オンライン診療の診療報酬が低いことや、オンライン診療システムの利用に決済費用などの手数料がかかることが挙げられる。普及を促進するためには、診療報酬の引き上げやシステム利用にかかる費用を国が負担するなどの政策支援が必要となる。

 

■一律支援を脱却するには 「中小サービス業で高まる息切れ倒産リスク―金融機関は『3つのC』促す支援を―」

▼要旨▼

  • コロナ禍の政策対応の1つである実質無利子・無担保融資の利用により、2020年度の中小企業の金融機関借入金は10.6%増加した。金融機関借入金から現預金残高を差し引いた純借入金は▲25.5%と減少傾向にあるが、20年度の業績を踏まえると本業による資金繰り確保余力は乏しく、特に中小サービス業での「息切れ倒産」が懸念される。
  • コロナ支援融資の返済が始まるなかで、資金繰りに窮する企業では手元現預金の取り崩しが予想される。シミュレーションの結果、飲食サービス業、宿泊業、娯楽業では22年初から同年半ばにかけて融資返済額が資金余力を上回ると試算される。
  • 従来型の一律支援は「ゾンビ企業」を存続させる温床となる。企業収益の早期回復のためには、コロナ禍においても業績を伸ばす企業に共通する取り組みである「3つのC」(Collaboration、Challenge、Cost Cutting)がカギとなる。既存の経営資源の有効活用を促すべく、民間金融機関は融資に拘らない提案型支援に舵を切る必要がある。
  • 民間金融機関による再生支援・再挑戦支援への取り組みへの動きを補完するため、金融当局には支援フローの明確化や対応状況を定期的に公表するなど、民間の取り組みと整合的な監督指針の策定が望まれる。

 

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