要 旨
本稿では、日本企業のガバナンス構造が企業収益や株式収益率1にどのような影響をもたらしているかを明らかにする。この目的のため、1981 年から2003 年までの上場企業のデータを用い、株式所有構造と企業収益および株式収益率との関係を検証する。検証によって得られた結果は、以下の通りである。第一に、株式所有構造が企業収益や株式収益率に影響を及ぼしている可能性がある。より具体的には、金融機関による株式所有比率が低いほどあるいは10 大株主による株式所有比率が高いほど、企業収益や株式収益率が高い傾向が見られる。この傾向は、資本の簿価時価比率が低い企業を分析対象としたとき特に顕著に現れる。第二に、株式所有構造の違いによる株式収益率の格差は、株式のリスク要因(マーケットの超過収益率、簿価時価比率、および時価総額)を考慮すると消滅する傾向にある。第三に、1990 年代後半以降に限ると、リスク要因をコントロールしても、依然として金融機関による株式所有比率の違いによる株式収益率の格差が残存する。以上の結果は、金融機関による株式所有が成長機会の豊富な企業にとって収益の低下要因となる一方で、大株主による株式所有が収益の上昇要因となることを示唆している。また、株式収益率の差異は、基本的に株式のリスク要因の差異を反映しているが、1990 年代後半以降においては金融機関による株式所有が株式収益率の低下要因として作用していることを示唆している。
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