[No.131] 東日本大震災および関東地方における電力制約の経済影響 ――日本の多地域CGE(応用一般均衡)モデルによる分析
2011/07/01
要 旨
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、東北地方における震災被害と関東地方における電力不足を引き起こした。東北地方の震災被害は産業連関を通じ他地域経済にも影響をもたらした。また、震災直後の関東地方の電力不足は計画停電 によって解消されたが、特定区域を一定時間無差別に停電させるその方法は経済に大きな混乱をもたらした。仮に夏場の電力需要の増加に伴い深刻な電力不足が生じれば、日本経済に大きな損害を与える可能性がある。 本稿は、東北地方の震災に伴う供給制約がある中、関東地方で夏季に再度電力に供給制約が生じ、電力割当が実施された場合の日本経済への影響をシミュレーションにより分析するものである。シミュレーション分析は、日本経済研究センターが開発したJCER地域CGEモデルにいくつかの変更を加える形で行った。モデルでは日本は東北地方、関東地方を含む8つの地域に区分され、それぞれの地域には17業種に集約された産業が存在する。また、電力については原子力、火力などの発電種が分けられており、今回のシミュレーションに適した構造となっている。 シミュレーションの結果は以下の通りである。 1)今夏、東北地方の震災による供給制約に加えて、関東地方の10%の電力不足を価格による調整ではなく電力割当で対処した場合、関東地方の実質GDPは約8.0%減少する(通年で約2.0%減少)。日本全体で見た場合、今夏の実質GDPは約4.6%の減少となる(通年で約2.0%減少)。 2)厚生損失を等価変分により確認すると、震災に加えて関東地方で夏季に電力割当が実施された場合、年間で東北地方は4兆2380億円分、関東地方は約4兆2600億円分、日本全体では約9兆8640億円分に相当する厚生損失が生じる。今夏の電力割当は日本全体で年間約4兆2560億円分の厚生損失をもたらす。 3)仮に東西で供給電力の周波数統一がなされていれば、関東地方の電力不足による被害は大幅に縮小し、日本全体の年間の厚生損失は約5兆6566億円に抑えられる。
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