要 旨
本稿は、これまでほとんど明らかになっていなかった、創業後比較的間もない時期の企業家の労働時間について観察し、実証分析を行うものである。今回独自に実施したアンケート調査によれば、創業後3-7 年の時期にあたる企業家の労働時間は、平均で週あたり66時間であるとの結果が得られた。これは、一般の男性常用雇用者に比べ約18 時間長い。また、全体の87%の企業家が、被雇用者に対して適用される法定労働時間である週40 時間を超えて働いており、25%の企業家がその2 倍にあたる週80 時間以上働いていることがわかった。さらに、企業家の労働時間の決定要因を検証する労働時間関数の推定を行った結果、将来的な株式公開予定は労働時間に対して正、売上高変化率は負の影響があることなどが示された。前者は、企業家が将来の所得期待に強く動機付けられている可能性を示唆する結果であり、後者は、Fraja (1996) の起業モデルを支持するものである。なお、推定にあたっては、標準的な最小自乗法のほか、標本選択の過程を明示的に考慮したBloom and Killingsworth (1985) のサンプルセレクションモデルの適用も行った。
本研究の結果、企業家は一般的な被雇用者に比べて長く働いていること、およびどのような企業家がどの程度働いているかが計量的に明らかとなった。特に、企業家が長く働く傾向があることが確認されたことは、企業家が事業から受け取る報酬のうち純粋に労働所得に相当する部分についても、その長時間労働分だけ大きな報酬を得るのがむしろ自然でさえあるという理解がされるべきであることを示している。
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