[No.118] Structural FAVARs による世界景気の要因分解
2009/01/01
要 旨
一国の経済は自国や他国に固有の要因はもちろん、全世界に共通した要因、各国が属する経済地域や発展段階グループごとに異なる要因などからも影響を受けている。地域的な経済圏が存在感を増し、アジアや資源国を中心とした途上国のプレゼンスが拡大して世界経済の多極化が進むなかで、こうした様々な要因がどのように絡み合いながら各国の経済に影響を及ぼしているのかに関心が集まっている。本稿は、こうした問題の分析に有用なStructural FAVARs(Structural Factor-Augmented VARs)という手法を使い、90 年代以降の日本、欧米、アジア地域の景気の変動要因を検討した。先行研究の多くが先進諸国を分析の対象にしてきたのに対し、現実の多極構造をできるだけ反映するため、以下では「世界」、「欧州」、「(欧州を含む)先進諸国」「(日本を除き、NIES、ASEAN を包含する)東アジア」「NIES」「ASEAN」「日本+東アジア」という7 つのグループがそれぞれに固有のファクターを有すると想定した。各国はこれらのうち自国に関係のあるファクターに加え、国単位のファクター(自国の要因や他国からのスピルオーバー効果)の影響を受けることになる。分析の結果、東アジア各国は基本的に世界ファクターの影響を大きく受けつつも、近年、東アジア地域に固有の要因の影響を強く受けるようになってきていることが確認された。
一方、欧州を含め、先進諸国では自国要因が相対的に強かった。このうち欧州では国によって欧州ファクターの影響度の大きさがまちまちで、経済統合の影響ははっきりとは確認できなかった。また、従来の研究は推計で抽出された各ファクターが具体的にどのような要因の影響を受けているかについて明確な結論を示してこなかったが、本稿では世界要因が資源価格や分析対象国以外の国々の需要ショックなどの影響を受けており、先進諸国要因は金融面や生産性のショックの影響を受けていることが示された。アジア要因には域内各国の技術の蓄積に貢献していると思われる域内分業の進展が影響を与えている。
キーワード:国際的な景気循環、経済の多極化
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