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中国・アジアウォッチ

ウクライナ戦争、防衛系スタートアップ投資加速

―米国はドローン・宇宙、中国は量子通信に注目

上原 正詩
  主任研究員

2022/05/19

 ロシアによるウクライナ侵攻で、防衛・軍事に関連するスタートアップへの関心が高まっている。ベンチャーキャピタル(VC)など民間の投資家がソフトウエアやヘルスケアといった分野だけでなく、防衛・軍事にも展開できる分野に資金を投じ始めている。ドローンを活用した防衛システムや、宇宙ステーションや打ち上げロケットといった宇宙関連事業を手掛ける新興企業である。テック投資がブームとなったこの1年で、こうした分野のユニコーン(評価額10億ドル以上の非公開企業)も相次ぎ誕生している。

 米国では「SHARPE」と呼ばれる国家安全保障を社是とするユニコーン級の企業群が出現している。上場したデータ解析会社パランティア・テクノロジーズやドローン(無人機)や防衛ソフトを手掛けるアンドゥリル・インダストリーズなどである。中国では画像認識AI(人工知能)を使う自動運転技術や解読不能とされる量子暗号通信といった軍事転用可能な技術に取り組むスタートアップへの大型投資が見られる。ドイツでは電動垂直離着陸機(eVTOL)の開発を手掛けるユニコーンが生まれ、日本では宇宙ゴミ除去に取り組む企業が大型資金調達に成功している。テック企業全体の投資の調整が進む中、ウクライナ戦争の勃発で防衛・軍事への支出の増加も見込まれ、有望投資領域となりそうだ。

【ポイント】

  1. ウクライナ戦争など地政学的な緊張の高まりに伴い、防衛・軍事系スタートアップへの関心が高まっている。ドローン、宇宙、自動運転など軍民両用技術分野へのベンチャーキャピタル投資が増えており、ユニコーンも相次ぎ誕生している。
  2. 米国では国家安全保障を社是とする「防衛系」と呼ぶべきスタートアップが資金を集めている。ドローンや防衛ソフトを手掛けるアンドゥリル・インダストリーズなど「SHARPE」と呼ばれるユニコーン級スタートアップが注目される。
  3. 中国では軍事転用が可能な量子暗号通信や自動運転技術といった分野のスタートアップに資金が流入している。ドイツでは電動垂直離着陸機を開発するユニコーンが誕生した。

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